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結婚前夜
コン、コン
土壁をノックすると、ポスン、と小さな反応があった。壁ではないどこかを叩いた音は弱々しく、彼女からの返事なのかがはっきりしない。
コンコン、コン
入ってもいい?
幼い頃に決めた暗号でそう尋ねれば、クスンと鼻をすする音が返事をした。
「レイナ、入るよ」
部屋に足を踏み入れると、花嫁衣装のレイナが振り向いた。体の二倍はある、透きとおった美しい翅。ずっと一緒に育った妹の晴れ姿に、あたしは目を細めた。
「きれいだよ、レイナ」
「クルロヴァ……」
あたしを呼ぶ声は震え、その顔は涙で濡れている。
「いつまでも泣かないの。明日は晴れの結婚飛行なんだから」
彼女の頬に手を当て涙を拭うと、レイナは顔を歪めてあたしに抱きついた。
「私、ここを出ていきたくない! ずっとこのコロニーで、クルロヴァと一緒にいたい……っ!」
「仕方がないよ、レイナ。翅が生えたあたしたちは、ここを巣立って新しいコロニーを作らなきゃいけない決まりなんだから」
「そんなのいや!」
「ひとりぼっちなのは最初だけ。すぐに自分の子どもたちで賑やかになるから、寂しくないよ」
「本気で言ってるの……?」
レイナは険しい顔を上げ、黒い瞳を揺らした。
「お母様に教えてもらったでしょう? 飛び立ったら空にはたくさんの花婿たちが待ち構えているって……クルロヴァは、いやじゃないの?」
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