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1.モテ男の休日
先人達は皆口を揃えて言う。
【結婚は人生の墓場だ】と。
うだるよう暑さが続く8月。8畳一間のアパートの一室で、ぶつくさとひとりごちを言っている男がいた。
ひとりごちを言っている男を訝しむかのように、その背後でチウチウネズミが言っている。
「招待状。招待状。招待状。結婚式。結婚式。結婚式。」
「どいつもこいつも結婚しやがって。あぁ、一体世の中はどうなっているんだ。こんなにも質実剛健、明朗快活、唯一無二な男がいるというのに、これっぽっちも声がかからないじゃないか!」
この男の名は四ノ宮一郎。
28歳。皆さんご承知のとおり独身独り身の負け犬である。
「別に私が結婚したいと言うわけではない。断じてない。私のような自由気ままな小猫が、誰かに縛られて生きるなんてまっぴらごめんこうむる。だがしかし!世の女子の誰からも声が掛からないのはおかしいのではないか。私のような男が道を歩いていたら、左から黄色い声援が鳴り止まず、後ろからは列をなして私と話すすきを見計らい、前からは私を略奪しようと傲慢な女子達が大挙して押し寄せてこなければならないのだ。」
男は一頻り言うと、突如として立ち上がって身支度をはじめた。
「そうだ、そうあるべきだ。今から出かけるぞ!きっと街中の女子達が桃色吐息を私にあれよあれよと投げかけてくるに違いない!」
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