壁越し恋模様

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 しかしそこから事情は少しだけ変わってきた。一ヶ月程前のことである。確か二日酔いに苛まれて授業をサボったから、サークルの新歓の次の日。今日ばかりは静かにしてと思ってたけど、案の定夜になるとギターの音が聞こえてきた。でもその日、彼はいつものメドレー演奏ではなく新しい曲を練習し始めた。  たどたどしいコード進行。指が慣れるまで、頭が覚えるまで同じフレーズを何度も辿る。その曲調も普段とは違い、しっとりとした曲だった。どこかで聞いたことあるような、何だっけ。そう思いながらも酒のせいで頭も回らず、私は眠りについた。  次の日からもその曲の練習は続いた。ギターの練習をしている間、彼は歌わない。歌わずにひたすらに一フレーズずつ進んでいく。それを繰り返すこと数日。大学に行く道すがら、ランダム再生のiPodからその曲が流れてきて、やっとモヤモヤが晴れた。これ、私の好きなバンドの恋の歌だ。  その日から、私は彼がギターの練習を始めるとその歌を口ずさむようになった。歌詞もすっかり覚えてしまうほど好きだった、青春の代名詞。どうして忘れていたんだろう。好きな人には好きな人が居て、絶望的な片思い。それでも側にいてほしい、そんな歌詞。別に、好きな人が居たわけじゃない。でも私はそのバンドが好きで、この曲も好きになっただけ。
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