第1章:名探偵と美少女と召使い

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  「?会わないって…?」 「パパ、人とお話するのが苦手なんです。パパはもう一年くらい外には出てないんですよ。ホームズさんから聞いてませんか?」 「…いや、ごめん。聞いて、ない…」 どういう、ことなんだろうか。 …一年も外に出てない? 母親は一年も前から行方が分からなくて失踪中で、父親は引きこもり? そんなことが、あり得るのか? 「顔色が悪いですよ?大丈夫ですか?」 「だ、大丈夫…そ、それよりパパさんのことだけど、その話って本当?」 「はい、本当ですよ。パパはお話が出来ないんです」 「で、でも凛亜ちゃん…言ってたよね?パパが早く帰って来なさいって、そう言ってたって…」 「あっそれは紙に書いてありました。パパとお話する時はいっつも紙とペンを使ってるんです。部屋にいながらなので直接渡すことは出来ないけど、ドアの隙間を使えば、パパにも届くんですよ!」 「そう、なんだ…。因みにその…出て来なくなったのはいつからなのかな」 「ママが居なくなって…そしたらパパ、部屋から全然出なくなっちゃったんです。」 「部屋から出なくなったって…本当に一歩も?」 「はい…出ません。一歩も」 「じゃあ…お仕事は?それに、ご飯はどうしてるの?」 「お仕事は…よく分からないけど……ご飯は近所の方が届けに来てくれます。」 「近所って?」 「えっと…あそこの、交番にいるお兄さん」 「こ、交番って…」 交番のお兄さんって…探偵と一緒に行ったあの交番にいた警官のことだろうか。 だとしたら、あの探偵が交番に来ていたのも頷けるが、なんだろう…この感覚。 理由は分からないけど、なんだか嫌な感じがする。 「…あの、真凛亜ちゃん。」 「はい、なんですか?」 「このことはその、ホームズさんは知っているのかな?」 「はい、前もってお電話でお話させて頂きました!本当は直接お話した方がいいのかなって思ったんですけど、ホームズさんが電話の方が都合がいいと言っていたので」 「!」 ここでオレは、ある重大な事実に気付く。 もし、この考えが正しいなら…オレは探偵を問い詰めなきゃいけなくなる。 「もしかしてさ、その電話で…事務所にも顔出して欲しいみたいなことホームズさんに言われたりした?」 「あ、はい!一応お話は電話で一通り済ませたんですけど、お茶でも飲みに来ないかって。その時に召使いさんのことも聞いたんですよ!」 「…あー、なるほどね」 「でも、それがどうかしましたか?」 「ううん、なんでもないよ。教えてくれてありがとう」 偶然にもここに真凛亜ちゃんがいて心底良かったと思った。 おかげで確信が持てる話が聞けたのだから。 「…あ、ところで真凛亜に何か用事でしたか?」 「・・そうだね。用事、があるんだ。ちょっと聞きたいことあってさ」 「はい!なんでも聞いてください!」 「…うん、大通りに戻る道…教えて欲しいんだ。お願いできるかな」 「それくらい任せてください!こっちですよ、召使いさん!」 真凛亜ちゃんは笑顔で答えてくれた。 オレは、この時…ちゃんと笑えていただろうか。 今となってはもう、全てが遅いんだ。
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