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「オレには…両親がいないんです。母は、物心着く前に居なくなって…父は、事故で亡くなりました。」
「母親の失踪に、父親は事故死…ね……」
…何か思うところでもあるのだろうか？
探偵は何かを考えている様子だった。
「・・・あの、何か気になることでもあるんですか？」
「ん？ああ失敬。いやね、キミの母親の失踪まではなんとなく想像出来たんだけど、まさか…父親までとは思わなくてさ」
「ああ…そのことですか」
なんだ…意外にも、そういうちょっとした良心みたいなのはあるのか。
「因みになんだけど…父親が事故で亡くなったのは、いつの話なんだい？」
「・・何でそんなことまで聞くんですか」
「あ、いや…言いたくないなら無理にとは言わないが…」
どことなく居心地な悪そうな素振りを見せる探偵。
自分で聞いておきながら、その態度はどうかと思う。
悪いことを聞いたという自覚があるなら始めから聞き出そうとしなきゃいいのに。
「…別にいいですよ。別に気を遣わなくて」
半ばヤケクソ気味だったのかもしれない。
探偵にここぞとばかりに煽られたくらいで口を滑らすなんて、我ながら単純だとは思う。
けど別に今更どうってことない。
それに、これはもうオレの中では終わったことなんだ。
オレが話すことで、探偵が真凛亜ちゃんと本当の意味で向き合ってくれるなら安いものじゃないか。
「で、事故のこと聞きたいんですよね？といってもオレは実際に見たわけじゃないんで、詳しいことは分からないんですけど…」
「見たわけじゃない…？」
「ええ、まぁ…。あくまで聞いた話なので」
「…もしかして、例の万年筆をくれたお祖父さんから聞いたのかな？」
「良く分かりましたね、そうですよ。…その、祖父からです。元々あの万年筆は祖父から父へ…そしてオレへと受け継いで、本来なら今頃…オレの父親の手に渡っているはずだったんです。でも、急な事故でそれがなくなり…そんな時だったんです、祖父がオレに万年筆をくれたんです。これは家族の唯一の遺品だから、大切するようにって。けして、無くしてはならないって祖父は言ってました。」
「・・・そんなことがあったのか…」
「って、だいぶ話しがそれましたね。それで事故のことなんですが…」
「ああいい。その話はまた今度にしてもらっていいかな」
「え、なんなんですか急に…最初に話せって言ったのは探偵の方じゃないですか」
「まぁ…その、なんだ。心の整理というか…ああ、別に召使いくんは気にしなくていいから」
「まぁ気にするなと言われれば別に気にしませんけど…」
なんだろう、このあからさま態度…。
明らかにさっきまでと様子が違う気がする。
まさか、同情でもしているんだろうか？
…いや流石に自分から聞き出しておいて、それはないだろう。
探偵が気にするなって言ってるのだから、そもそもオレには関係のないことだ。
それに…こればかりオレも聞きづらい。
『ガラにもなく落ち込んでいるんですか？』って、聞いたところで、どうせ鼻で笑われるに決まっている。
それよりも、真凛亜ちゃんの件が重要だ。
すっかり話が逸れてしまった。
オレは慌てて、本題に入ろうとした。
「そ、それよりも！オレにはまだ言いたいことがーー」
すると、探偵は何を思ったのか不意にオレの頭に手をそっとのせてこう言ってきた。
「…悪かったね」
そしてそのまま頭を撫でられ、されるがままになる。
ぽんぽんと優しい手付きで撫で続ける探偵。
「ちょっ…いきなりなんですかっ！！」
思わず手を振り払った。
からかっているのか、これも単なる同情の延長なのか、理由は定かではないけれど、少なくともオレは探偵の意外な行為にかなり動揺していた。
な、なんなんだこの人は…もう。
「おや、嫌だったかい？」
「嫌とかそういう問題じゃありません！オレの話、ちゃんと聞いてましたよね？」
「話？ああ、そういえば言ってたね。」
「…約束通り、オレはちゃんと話しましたからね。真凛亜ちゃんのこと、後はよろしくお願いしますよ」
ほんっとこの人は調子がいいな…。
さっきまでの様子が嘘みたいだ。
まぁでもこれで…全てが丸く収まる、そう思った矢先、探偵が驚きの言葉を発した。
「召使いくんには悪いけど、真凛亜ちゃんには話すつもりはないよ」
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