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「オレが気付いたこと…それは、探偵も言ってる通り、二つあります」
「早速、お聞かせ願おうか」
…くそ、余裕ぶってるのも今のうちだ。
絶対に化けの皮を剥がしてやる。
「一つは、もちろん真凛亜ちゃんの母親のことです。改めて、ハッキリと聞かせてもらいます。探偵、あなたは真凛亜ちゃんの母親の居場所を知っていますね?」
「・・・そうだね、YESと言っておこうか」
「ッ!…あっさりと認めるんですか」
「おや、意外かい?」
「……ええまぁ。てっきり、はぐらかされると思ってたんで」
「まぁそうしても良かったんだが…どうやらキミは確信を持って言っているようだったからね。私は無駄なことはしない主義なんだ」
「…無駄なこと、だって…?」
オレは探偵を睨みつける。
…いちいち癪に触る言い方ばかりしやがって。
「おっと失言だったかな。それで?キミはいつ、そのことに気付いたんだい?」
「・・・それは、真凛亜ちゃんのおかげですよ」
「…真凛亜ちゃん?何でここであの子の名前が?」
「偶然、会ったんです。あなたと交番で別れた時に」
「ああ…キミがわけもなく走り去った後に、そんなことがねぇ…」
「で、でもそのわけもなく走り去ったおかげで、オレは真凛亜ちゃんに会えたんです!あれはけして、無駄なことではありませんでした!!」
「あはは、無駄なことって言われたこと気にしてるの?」
「・・・ッ」
これ、完全にバカにされてるよな…っ
それこそ気にしたら駄目なんだろうけど…やっぱり腹が立つ。
「…けど、真凛亜ちゃんは、家に帰ったはずだよね?」
「それはオレも驚きましたよ。まさか闇雲に走って行った場所が真凛亜ちゃんのお家の近所だったなんて、思いもしてなかったんで」
「え、キミ…真凛亜ちゃんの家に行ったのかい?」
「あ、いや…それはその…行ったというか、迷い込んだというか…っ」
「・・ん?迷い込んだ…?」
「そ、それについてはノーコメントでお願いします!!」
実は迷子になってましたなんて、いくらなんでも言えるわけがない。
「まぁいいか。それで?キミは真凛亜ちゃんと会ってどうしたの?」
「どうって…別に普通に話をしただけですよ。真凛亜ちゃんが言ってました。母親の話もそうですが…父親についても、ちゃんと教えてくれましたよ」
「!・・・そういうことか。」
ここに来て、ようやく探偵の表情が変わる。
…どうやら少しは本気でオレの話を聞く気になったらしい。
「……何か言いたそうですね」
「ああいや、私のことはいいんだ。それより、続きを聞かせてくれないかな。キミが聞いた父親の話を」
「…真凛亜ちゃんの父親は、もう一年くらいは外に出ていません。いわゆる、引きこもりです。それも並大抵なものではなく、人と話すことすらままならない重度なものです。…つまり、真凛亜ちゃんのご家族は母親は疾走中な上に、父親は引きこもりという…明らかにあり得ない状態にあります。だけど、真凛亜ちゃんは言ってましたよね?警察にはパパが捜索願いを出しているのに何の音沙汰もないって。」
「・・・ほう」
「…だから、オレは思ったんです。そんな人がどうやって捜索願いなんて出したのかなって」
「……なかなかいい着眼点だとは思うけど、別にそれはそこまで難しいことではないんじゃないかな。今の時代、連絡の方法なんていくらでもあるんだよ?」
「あくまで可能性の話ですよ。それに、オレは別にこれだけの理由で確信を得たわけじゃありませんよ」
「じゃあ、どういった理由なのかな」
「…交番、ですよ。」
「交番…?」
「分かりませんか?あなたと一緒に向かったあの交番ですよ。最初は何で交番に来たのか理由が分からなかったので、単にやる気がないのかなって、くらいにしか思っていませんでした。まぁだからこそオレは…その、あなたに対して馬鹿みたいに声を荒らげたりしたわけなんですが…っ」
「……その理由も、真凛亜ちゃんから聞いたんだね」
「…はい。真凛亜ちゃんは明らかに保護されるべき対象です。だけど、現状されていないってことは、もちろんそれなりの理由があるということになる。…だから、オレは思い切って聞いてみたんです。お父さんのお仕事のこととか、ご飯のこととか…どうしているのかって」
「・・それで?真凛亜ちゃんは何て?」
「お仕事については分かりませんでした。…けど、ご飯については教えてくれたんです。ご近所の人が持ってきてくれるって、それもただのご近所の人ではなくーー交番のお兄さんが持って来てくれるんだそうですよ。…それで、オレは思ったんです。これは、探偵…貴方の仕業なんじゃないかってね」
「…子供がゆえに素直すぎるっていうのも、なかなか罪なものだね」
「で、実際のところどうなんですか。」
「…ご名答。もちろんそれは私の仕業…とも言えるね。でも、それがどうして母親のことと繋がるんだい?」
「ここから先はあくまで推測です。この時点で、少なからず貴方は警察と何かしらの繋がりがあることは明確です。だけどあなたは…真凛亜ちゃんの現状を知っているのにもかかわらず保護しようとはしなかった。オレは、ここに大きな疑問を感じたんです。貴方は警察を動かせる立場でありながら、保護しなかった理由…それは一つしかありません。」
「・・・・・」
「貴方は真凛亜ちゃんの母親について、都合の悪い何かに気付いてしまったんですよね?」
「・・・・・・」
「ああ、もちろんこれは警察にとって都合が悪いのではなく、探偵…あなたにとって都合が悪かった。違いますか?」
「・・・・・・・」
探偵は何も答えようとはしなかった。
顔を伏せ、表情すらも見せようとはしない。
そして探偵は顔を伏せたまま、ゆっくりとした口調で次のことを言った。
「・・・・・召使いくん。」
「な、なんですか…?」
「……今度は二つ目の気付いたことについても、キミの見解を聞こうか」
「は?何でこのタイミングで…」
「……いいから。キミの思ったことを、そのまま言ってくれればいいよ」
まだその答えを探偵に聞いていないのが気掛かりだけど、オレにとってある意味それは好都合でもあった。
なんたってオレが一番許せない理由は、この二つ目にこそ、あるのだから。
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