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「…さすがだよ、召使いくん」
探偵は不気味に笑う。
そして、ゆっくりと一拍おきながらパチパチと拍手をするかのように手を叩いていた。
「なんの…つもりですか」
「・・・・・・・」
探偵は答えない。
この不可解な行動にオレは内心たじろぎながらも、たたみかけるように言葉を続けた。
「アンタ、自分が何をしているのか…本当に分かってるのか…?」
「もちろん、分かっているつもりさ」
ー即答だった。
ほんと…なんだんだよ・・この、余裕は。
少しくらい動揺してもおかしくないはずだ。
なのに、何で…その素振りすら見せないんだ?
「…とにかく、オレの言いたいことは以上です。今度こそ、真凛亜ちゃんに本当のことを話してください。」
「ああ…そういえば、そういう話だったね。」
「もちろん、真凛亜ちゃんだけではありませんよ。その後にはちゃんと…警察にも話してください。あなたが警察とどういう繋がりがあるのかは分かりませんが…こんな大事なことを隠していたんだ。さすがの警察もあなたのことを野放しにはしないと思います」
「警察、ね…。要するに、自首しろってことなのかな」
「当たり前でしょう。捕まるのは明白ですから。だからこそ、先に真凛亜ちゃんに…」
「へぇ…キミは、それを言えっていうんだ。真凛亜ちゃんの母親は、10年も前に亡くなっているんだよって。」
「……そ、そうです……っ」
「それが、真凛亜ちゃんを苦しめることになるのに?それでもキミは、この真実を話せって言うの?」
「そういう問題じゃありません。…確かに、辛い真実です。けど、このまま何も知らないままでいることの方が、よっぽど辛いと思うんです」
「ふぅん…。キミはそう、考えるんだね・・・」
探偵は半ば納得したかのように頷いていた。
…ここまで一気に捲し立ててみたけど…本当にオレの考えは正しかったんだろうか?
改めて不安になる。
探偵の様子からして、おそらく間違いはないはずなんだけど。
…なんだか、何かを間違えてるような気がしてならない。
それも根本から覆す、何か…大きな間違いを。
「…それで、結局あなたはどうするつもりなんですか」
「そうだねぇ…」
「そ、そうだねぇ…って…アンタ、そんな悠長なこと言ってる場合じゃないでしょう!?いい加減にしないとオレがーー」
「ーん?もしかして、警察に突き出すとでも言うつもりなのかな?」
「くっ・・・い、今ここであなたを警察に突き出すと、真凛亜ちゃんに真実を話す機会が永遠になくなります。」
「あくまで、私の口から話せと…そう言いたいわけか」
「当然です。真凛亜ちゃんはあなたの依頼人なんですから。…最後まで、責任を持ってください。」
「言うねぇ…そう、真凛亜ちゃんは私の大切な依頼人だ。確かに責任は取らなきゃいけない…」
「そ、そうですよ!探偵、ようやく分かってくれたーー」
ー言いかけた言葉が止まる。
探偵がオレの言葉を遮ったからだ。
「そう、だからこそ私は…真凛亜ちゃんには話さない。絶対にね」
淡々と悪びれる様子も無く、そう言い切ったのだ。
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