第1章:名探偵と美少女と召使い

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  部屋の奥にある客間に案内される。 外装から薄々感じてはいたけど、部屋の中も相当古い。 アンティークといえば聞こえはいいかもしれない。 けど、テーブルには無数の傷。 そして、ソファにはところどころほつれもあり、更には謎のシミまであった。 お世辞にも綺麗とは言えない内装だ。 …気にしたら負けなんだろうけど、こういうのを見ると落ち着かない。 「緊張してる?」 「い、いや別にそういうわけじゃないです!」 「そう?なら早速だけど、お話を聞こうか。」 「あっはい、そのことなんですがーーー」 ほつれだらけのソファに腰掛けて、改めてオレはひったくりにあったことを話すことにした。 取られたものは、なんてことない普通のスクールバッグ。 もちろん中身だって何の変哲もない代物ばかりだった。 金目の物なんて何一つ入ってないのに何故ひったくりに狙われたのか、その理由はいくら考えても分からなかった。 「と、いうように…心当たりは何一つないんです。」 「・・ふむ、なるほどね」 「それで、探偵なら何か分かるかなと思って…」 「まぁ焦る気持ちは分かるが…そう結論を急いでも事は解決しないよ」 「それはそうかもしれませんが…」 「そうだな…まずは視点を変えてみようか」 「?視点を変える?」 「…例えばキミがそこまで躍起になる理由に、もしかしたらヒントがあるかもしれないぜ?」 「り、理由…ですか?」 「ああ、キミさえ良ければ私にその理由を教えてくれないか?」 うっ…そうきたか。やっぱり聞かれてしまった。 良ければ何て言ってはいるが、実際のところどうなんだろうか。 聞き出すまで話は進ませないといった気迫を感じる。 …まぁ別に隠すほどのことではないんけど、あまりこういう話はしたくないんだよな。 「その、正直言うとスクールバッグ自体は別にどうでもいいんです。中身だって教科書とかくらいで金目の物は入れてなかったし…」 「けど、わざわざ探偵に依頼しに来るくらいだ。やっぱり、それなりの理由があるんだね」 「えぇ、まあ…その通りです。その中にはオレにとって、すごく大切なものも一緒に入れていたんです。…だから、どうしてもそれだけは取り戻したくて…ッ」 「大切なもの…ね。しかも、どうしてもときたか。因みに、具体的には何なのか…それも、話せるかい?」 「・・・・はい、祖父から貰った形見の…万年筆、です」 「ッ!……万年筆?」 オレがそう言うと、急に探偵の目付きが変わった気がした。 「?どうかしましたか?」 「あっいや…とりあえず理由は分かった。それは確かに大切なものだね、話してくれてありがとう」 「いえ、それよりも電話で言ってたこと、本当なんですか?」 「…言ってたこと?」 「正直、聞いていいのか迷ったんですけど…言わせてもらいますね」 そう、単純に気になったことがある。 ここに来た理由は、それこそ藁にもすがる思いだったからだ。 なんせ警察に相談したっていうのにニ週間間経っても何の音沙汰もないのだから。 ーそんな時だった。 この探偵の噂を知ったんだ。 なんでも依頼を受ければ、必ずやり遂げる天才だとか…。 「…言ってたじゃないですか。ほら、必ず依頼はやり遂げるって」 「ああ、もちろん二言はないよ」 即答だった。迷いなんてまるでない。 さも当然と言った顔で探偵は言い切った。 「…じゃあ、ついでにもう一つ聞いていいですか?」 「ん?まだ何かあるのかな」 ここに来るまでの間、ずっと気になっていたことがある。 躊躇いつつも思い切って、あのことも聞いてみた。 「・・・電話でおっしゃってたアレも……本当、なんですか?」 「?アレとは?」 「だから、その…令和の名探偵、シャーロック・ホームズだって……」 「ッ!ああ…アレか」 オレが何を言いたいのか、探偵もピンと来たらしい。 だが探偵は動揺一つ見せることなく、これもまたさも当然と言った様子でこう言い切ったのだった。 「ーそう、この私こそが…かの有名なシャーロック・ホームズ。通称、令和の名探偵。…以後お見知りおきを」
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