第1章:名探偵と美少女と召使い

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  「このポットとカップが、真凛亜ちゃんのもの…?あの、言ってる意味が良く…分からないんですが」 「まぁ…そういうと思ったよ。」 探偵はそう言って静かに席を立った。 そして、自分のデスクのある方へ歩いて行く。 「探偵…?」 「ああ、すまないね。なんせ今まで我慢してたもんだからつい」 探偵は自分のデスクに置いてあるパイプを手に取り、口に咥えた。 「!パイプ、吸われるんですか…」 「煙は平気かい?」 「別に…構いませんけど」 オレから了承を得ると探偵は微笑んで一服だけ吸う様子を見せた。 そして、それが終えるとゆっくりと口調で語り始めたのだった。 「あれはそう…10年前のこと。真凛亜ちゃんの父親…広樹さんから依頼を受けたのが始まりだった」 * 広樹さんは、私が事務所を設立して初めての依頼人だった。 どこで何を聞いたのかは知らないが、私の腕を買っていてくれてね。 是非とも私に依頼を頼みたいと、出来たばかりの事務所に朝イチで訪ねて来たんだ。 「・・・探偵さんよ、アンタ…腕利きの名探偵なんだろ?だったら頼みたいことがある。金ならいくらでも出す!!だから、俺の…俺の家内を探して欲しいんだ!!」 さすがに驚いたよ。 まさか出来たばかりの探偵事務所に飛び込みで依頼人がくるなんて、思いもしなかった。 彼自身も只事じゃないような様子だった。 だから私は彼を部屋に招き入れて、詳しい事情を聞くことにしたんだ。 「名前は真衣子。居なくなったのはひと月前だ。」 「…結構な日数が経っていますね。警察に捜索願いは出されましたか?」 「当たり前だッ!とっくに出してるに決まってるだろッ!けど、アイツらは何も言って来ねぇんだよ!だから俺はこうしてアンタを訪ねて…ッ!!」 「・・心中お察しします。けど先ずは落ち着いて…もう少し詳しい話をお願い出来ますか?」 彼は酷く興奮していた。 躍起になって、どこか焦っているようにも見えた。 それも何かに駆られてるような…そういう風にも見えて、私はこの時点でこれはただの失踪事件じゃないって思ったんだ。 もちろんあえてここで踏み込むような真似はしなかった。 あくまで依頼人の口から話してくれるまではまだ聞き手でいるつもりだった。 けど、それも話を聞けば聞くほどそういうわけにもいかなくなったんだ。 「…俺には、娘がいるんだ」 「!娘さん…ですか」 「…まだ3歳の娘だ。名前は真凛亜と言って…うう…っ」 娘さんの名前を出した後、彼は唸るような低い声で泣き始めた。 そんな中、私はなんとなくとはいえ、この時点で既に察しはついていた。 麻衣子さんの話をし始めた途端、流れるように娘さんの名前まで出したところで、気付いてしまった。 「・・・居なくなったのは、奥さんだけではありませんね」 そう言うと、彼は勢いよく私の方に顔を向けた。 そして、苦虫を嚙み潰したような顔で話し始めたのだ。 「ああ…そうだ。真衣子だけじゃない。娘の真凛亜も…居なくなった。」
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