第1章:名探偵と美少女と召使い

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  「ゆ、誘拐って…真凛亜ちゃんのお父さんが…依頼人自らが誘拐だなんて、いくらなんでも無茶苦茶すぎますッ!!!」 召使いくんはここぞとばかりに声を荒あららげ、勢いよくその場から立ち上がった。 あり得ないと最後にその言葉を付け足すような、そんな気迫。 けど、私がそれを言わせなかった。 召使いくんが言う前に、私がこう言ってのけただからだ。 「まるで、あり得ないとでも言いたそうだね。」 「だ、だって…実の父親ですよ!?何でそんな言い掛かりみたいな真似事なんかーー」 「この場合、実の父親がどうかなんてそんな事実はどうでもいいんだよ。第一、この時はまだ広樹さんと私は初対面だ。いくらなんでもこの時点で、実の親子かなんて分かるわけがない」 「そんな揚げ足取りみたいなことはやめてください。確かにそうだったかもしれないけど、結果的に親子で間違いなかったのでしょう?探偵だって真凛亜ちゃんの父親、広樹さんの依頼だって…最初にそう言ってたじゃないですか」 「・・・・・君もなかなかめざといね。まぁ結果的に言えばそうだったんだが。」 「じゃあ尚更なんで…ッ!!」 召使いくんは酷く興奮していた。 …まぁ無理もない。 彼からしてみれば、他人事とは到底思えないんだろう。 ーー家族。 特に…両親に関することなら尚更だ。 「…さっきも言ったと思うけど、改めて言わせてもらうよ?実の父親か、父親じゃないかなんて事実はこの際どうでもいいんだ。一番の問題は、広樹さんが何故実の娘である赤子の写真を一か月の間、捜索に使っていたか。召使いくん、君にその理由が分かるかい?」 「・・・ッ分かりませんよそんなの。というか、誘拐の方がよっぽど気になるでしょ。どう考えても辻褄というか、合点がいきません」 「そう?むしろ依頼人が実が犯人でしたってパターンはミステリー小説では良くある話だと思うけど?」 「オレはフィクションの話をしてるんじゃありません!もっとこう…なんていうか、現実的な話です!そもそもそんなことする理由がないじゃないですか!それに誘拐って普通お金目当てでするものですよね?だけど、真凛亜ちゃんのお父さんは金ならいくらでも払うって…そう探偵に言ってたんでしょう!?わざわざ誘拐犯が探偵にお金を払うために依頼するなんて、そんなのミステリー小説ですらあり得ませんよ!!」 「へぇ…一応それなりの根拠はあったのか。てっきり勢いで言ってるものかと思ってたけど…召使いくん、やっぱり君はめざといね」 「バカにしてます?」 「いや?むしろ感心してるんだよ。…そうだね、確かに普通ならあり得ない。そんな滑稽な誘拐犯はフィクションの世界にすらいないだろうね」 「なら、どうして誘拐なんて!」 「それはもちろん…私も君と同じように、根拠があるからだよ。」 「!根拠…ですか?」 「当然だろう?まさか…召使いくんは私が根拠もなく手当たり次第に疑ってかかっているとでも思っていたのかい?」 「…否定はしません。じゃあ教えてください。その根拠ってなんですか?後、何で父親である広樹さんが実の娘の真凛亜ちゃんを誘拐なんてしたんですか!?」 「そうだな…まぁここは正直な召使いくんに免じて、順番ずつ話していこうか」 「・・・・・もしかして、否定しなかったこと根に持ってます?」 「さあ…それはどうかな」 ーー否定はしない。 それは私や召使いくんを含め、依頼人でもある広樹さんもそうだった。 彼は、私の問いに否定しなかった。 その答えの意味。その先にある答えとは、ただの誘拐なんて言いがたいものだということを…私はこの後、身をもって知ることになる。 ・・・それこそまさにその真実こそ、否定されて欲しいと…心から願うばかりだったよ。
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