2人が本棚に入れています
本棚に追加
「な、何でこんな…ッ！？」
オレは声を荒らげるしかなかった。
ー逃げられない。
この状況が、まさに物語っている。
…まさか、初めて行った親友の家でこんな目に合うなんて。
「…僕はね、ただ兎馬くんと一緒にオーディションを受けたいだけなんだよ？」
「で、でも…オレには関係ない…ッ！そんなこと言われてもどうしようも…」
「じゃあ、何であんなにオーディションについて聞いてきたの？僕、最初に言ったよね？巻き込みたくないって…。」
「そ、それは…」
「それにさ、こうも言ったよね？僕が兎馬くんを巻き込みたくないって言った時、そんな寂しいこと言わないでって。なのに、いざ巻きこまれそうになったら逃げるなんて…それはあんまりなんじゃないの？」
「べ、別に……逃げるつもりなんてない……ッ」
「じゃあ、何でそんなに焦ってるの？逃げるつもりないなら、焦る必要もないよね？」
「……っ…」
どうしよう、何も反論出来ない。
確かにオレは言った。言ってしまった。
でも、だからといってこれはあまりにも次元が違いすぎる。
ー怖い。
怖いんだ。嫌だ。
オーディションなんて受けたくない。
そんな気持ちばかりが先行してしまう。
「…兎馬くん？逃げるつもりはないんでしょ？だったら…答えはもう決まってるってことでいいんだよね？」
「……っ…」
…どうしよう。どうしようどうしようどうしよう。
なにか、なにか言わなきゃ…。
「……す、少しだけ…時間を、ください…っ」
迷いが頭の中をぐるぐるぐるぐると巡り巡って、出た言葉がこれだった。
しぼるとるかのように出した答えは、なんてことない。
…ただの、お願いの言葉だった。
「…わかった。じゃあ一日だけ待ってあげる」
「え…ほ、ほんと！？」
無理なお願いだと思った。
けど、意外にも終夜くんはすんなりと頷いてくれた。
理由…は分からないけど、ひとまずは助かった、のか…？
「…ごめんね。いきなり変なこと言ったりして…」
「あっいや…その、別に気にしてないから…」
「ほんと？なら良かったっ！」
あまりの引き際の良さに困惑してしまう。
さっきまでとはあまりの変わり様だ。
…念のため、その理由も聞いてみた方がいいかもしれない。
「あの…終夜くん。その、オーディションのことなんだけど…」
「やっぱり受けてくれる気になってくれたの！？」
「いや、そうじゃなくて！一日待ってくれるって、どういう意味なのかなーって…」
「？そのままの意味だよ。土日で明日も休みだし、明日また改めて答えを聞かせてよ」
「う、うん…？」
…それって、電話で話す形でもいいのかな？
なんて少し疑問に思ったけど、オレは口には出さないことにした。
変なこと言って、もしまた終夜くんの気が変わったりしたら大変だし…。
「じゃ…じゃあ、オレそろそろ帰るよ」
「あっうん…そうだね。今日は、話を聞いてくれてありがとう…」
「いいよ…お礼なんて…」
「ううん、言わせて。あ…玄関まで送った方がいいかな？」
「大丈夫！…また、明日ね」
後ろを振り返りドアに手を掛けると、すでにその扉に鍵はかかっていなかった。
…良かった。
一瞬、変なこと考えちゃったけど、やっぱり終夜くんは終夜くんだ。
オレは何にもしてあげれなかったのに、ありがとうなんて言ってくれるなんて思わなかった。
でも、それが終夜くんなんだ、なんだかんだで優しい。
もしかしたら今頃…やり過ぎたなんて思ってたりしてね。
「ふふっ」
なんて、オレは呑気に笑っていた。
…やっぱり終夜くんとはこのまま親友でいたい。
明日…きちんと整理して、改めて話そう。
そうしてオレは、そのままその部屋を後にした。
ひとり部屋の中にいる終夜くんには一切、気にも留めずに。
そこに、終夜くんの本当の狙いがあるとは知らずにーー
「あっ入原終夜です。何度もお電話すみません。実はその、あの件について聞きたいことがあるんですけど…いいですか…？」
最初のコメントを投稿しよう！