Chapter1:死にたがりオーディション

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  「!?な、なんでこんな…ッ!!!」 ー頭が混乱する。 分からない、分からない。何で、どうして。 身に覚えがない。意味が、分からない。 ー何で、オレの名前が記載されているんだ? 焦りと疑念がオレの脳内を駆け巡った。 「…見て分からないの?兎馬くんの資料だよ?」 「で、でも…オレは資料請求なんて、してない…ッ!」 「ふふ…おかしな終夜くん。さっき言ったばかりでしょ。友達紹介したって。話、聞いてなかったの?」 ー笑う、笑う。 屈託の無い笑顔で、終夜くんは嬉しそうに笑っている。 これまでも終夜くんは変なタイミングで良く笑っていた。 …おかしい? おかしいって、なんだ。何がそんなにおかしいんだ。 友達紹介なんてもの、オレは知りもしないのに。 知らなかったオレが、気づかなかったオレが可笑しいのか? 「…と、取り消してよ…ッ!!」 それは、思わず出た言葉だった。 そしてすがるような思いで、そのまま終夜くんの側に駆け寄った。 座っていた椅子が、その場に勢いよく倒れる。 無論、その衝撃で机に置いてあったジュースも床に溢れ落ちてしまう始末だった。 ベッドに座っている終夜くんを前にして、オレはなりふり構わず又もやお願いすることしか出来なかった。 「…ねぇ、兎馬くんはさ…なんで自分が資料を受け取ることが出来たんだと思う?」 「…?何言って…」 突如、訳の分からない話をし始める終夜くん。 …その表情には、さっきまでの笑顔は既に消えていた。 「…答えは簡単だよ。それは兎馬くんも、僕と同じように死にたいと思ってるからなんだよ」 「ち、ちがう!!オレは別にーー」 ー否定。反射的に出た言葉とは言え、それは本心だった。 「ううん、違わないよ。じゃなきゃ、友達紹介なんて通るわけがないんだ」 「?どういう意味…?」 「…資料を見せた時、最初の一ページ目に書いてあったでしょ?このオーディションは現在死にたいって思ってる人のみ応募可能って、それは友達紹介でも一緒。」 「そ、そんなの…別に、終夜くんが決めることじゃない…っ」 「うん、そうだね。それはあくまで、オーディション事務局の人が決めること、かな…」 オーディション事務局…? また訳の分からない単語を…。 怒りが、ふつふつと湧いてくる。 ー友達紹介? オーディション事務局? それがなんだって言うんだよ。 オレは、何も知らない。 何も知らない、聞いていないのに、こんな訳の分からないことに巻き込まれるなんて…。 「・・・ふざけないでよ」 「僕は最初からふざけてなんかないよ。ただ僕は…後押ししただけ。兎馬くんのことだから意地になって、いつまでも受けてくれなさそうだったから…」 「だから、友達紹介?」 「うん…昨日、兎馬くんが帰った後、事務局からオーディションのことで電話がかかって来て…その時にそういう制度はあるのか聞いてみたんだ」 「…それで、事務局の人は何て言ってたの?」 「それがね!滅多にない例外なことらしいんだけど、あるにはあるんだって友達紹介!だから僕、これしかないと思って、つい兎馬くんの名前を…!」 「…経緯はわかった。もう今更終夜くんにあれこれ言っても意味ないってこともわかった。ならもう終夜くんには何も聞かない」 「え…どういうこと?」 「さっき、電話で聞いたって言ってたでしょ?だったらオレもそのオーディションの事務局の人に聞いてみるっ!」 「そ、そんなの無理だよ!できっこない!!」 「何でそんなこと終夜くんに分かるの!?大体つい、なんて軽い気持ちで言ったんなら、間違いだったっていえば済むことかもしれないだろ!」 オレは急いでスマホを置いた机に向かった。 スマホを片手に兎馬くんに詰め寄る。 「ほら、早く。そのオーディション事務局の電話番号!さっさと教えてよ!」 「そ、そんな…っ!大体、資料だって来てるのに…今更無理だよッ!!」 「だから、それを返品するって言ってるの!そもそも友達紹介とか訳わかんない制度自体おかしいよ!しかも、それを終夜くんが持ってるなんて尚更おかしいじゃん!」 「ーもうっ!なんでわかってくれないの!?資料請求が僕に来てるってことは、事務局が受理したってことなんだよ!?」 「ちゃんと受理したかどうかなんて、まだ分からないだろ!?証拠もないのにそんなこと言わないでッ!!」 …そう、証拠なんてある訳ない。 この時のオレは本気でそう思っていた。 ーーない。 そう…あるはずが、ない…と。 「…………証拠、ならあるよ」 「は…?」 だけど、それは違っていた。 ーー論より証拠。 オレは、昨日、その証拠を目にしたじゃないか。 「はい、これ兎馬くんに」 「?これは…?」 「開けて、見てみて。全てが分かるから」 手渡されたのは、小さな茶封筒。 宛名は、先程の資料と同じく月鎖兎馬様と書かれてある。 自分の名前が書いてある以上、開けないわけにはいかない。 しぶしぶこの茶封筒を開けると、一枚の写真がヒラヒラと舞い落ちて来た。 そして、オレは写真に写っていた二人の人物と目があった。 ー見覚えのある男女の写真。 しかもこの写真は、昨日終夜くんから見せてもらったものと構図がまるで同じだった。 ・・ただ、唯一違うところといえば。 この二人の人物が、 この二人の生首が、 ーー紛れもなく、オレの両親だということだけだった。
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