Chapter1:死にたがりオーディション

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  次の日、オレはスマホのアラームによって目が覚める。 時間は7時だった。しかも、今日は平日。 例によってオレは学生だから、もちろん学校だってある。 「準備しなきゃ…」 嫌々ながらも、オレは制服に着替えて学校に行く準備をした。 …本来なら今頃リビングから母さんと父さんの話し声が聞こえてくるのに。 二人して楽しそうに喋っているはずなのに。 「…お腹、すいたなあ」 階段を降りて、そのままオレはリビングに向かう。 いつもだったら母さんと父さんがいるから、入るに入れないんだけど。 「…っ」 思わず生唾を飲む。 いつもだったら絶対にしない、出来ない行動をしている事実にオレは緊張しているのだろうか。 ドアに手をかけ、ゆっくりと扉を開ける。 「……いない」 そこは、もぬけの殻だった。 誰もいない空間。 「…事務局の人が言ってたことは、本当だったんだね…」 いつもの光景が、一夜にして一変してしまう。 もしかしたらって、思っていた。 けど、現実はそんなに甘いもんじゃない。 寝て起きたら、すべて嘘だったなんてことはーー現実ではあり得ないんだ。 だって、もう母さんと父さんはもういないのだから。 その現実は、紛れもなく真実だった。 …認めるしかない。 昨日の電話の通り、オレに残された道は死にたがりオーディションを受けるしかないんだ。 「…ッ」 唇を噛み締めながらも、オレはその足でリビングに入りキッチンへと向かう。 もう、迷う必要も戸惑う必要もない。 ふと見るとキッチンにはパンがあった。 きっと母さんが買いだめしていたんだろう。 …いつもだったら、けして手を触れないんだけど…賞味期限もあるんだし。 「…うまっ」 袋から取り出し、生の食パンをおもむろに頬張る。 …食パンって、こんなに美味かったんだ。 冷蔵庫も漁ってみる。 …牛乳がある。 これも…そろそろ賞味期限が近い。 「…うわっ…なんか乳臭い…」 匂いはそうでもなかったけど、味には少し慣れる必要があるかもしれない。 …うんでも…食パンに合う。 「美味しい…っ」 謎の感動に浸っていると、もう時間は既に7時30分を過ぎていた。 遅刻まではいかないけど、そろそろ家を出たほうが良さそうだ。 「…よし、朝からいっぱい食べれたし学校もいけそう」 そうして、オレは気持ちを切り替えて学校に向かった。 * 「!あれは…」 学校に着くと、校門の前に人がいた。 一瞬、学校の先生なのかと思ったけどその姿はあまりにも見慣れすぎていてー間違えようがなかった。 けど、どうして? どうしてこんな朝早くから、彼がそこにいるんだろう? すかさず声を掛けようとしたが、それはすぐさま遮られた。 彼は、オレに気付いた途端すかさずオレに声を掛けてきた。 「ー兎馬くん!おはよっ!」 「……終夜、くん・・」 そこに居たのは何の躊躇いもなく、笑顔でオレに話しかけてくる終夜くんだった。
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