Chapter1:死にたがりオーディション

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  「えっと…朝からこんなところで何してるの?」 当然の疑問だった。 今までだってこんな風に校門で待ってもらってたことはあったけど、それはあくまで塾に行くという名目上の理由があったからだ。 こんな風に朝早くから来たことなんて今まで無かったのに。 「何って、兎馬くんを待ってたんだよ?」 「ま、待ってた…?」 待ってたって…まさか待ち伏せ? もしかして昨日オレが終夜くんの首を絞めたことで何か言いにきた…とか? …いやでも、本当にそうだとしたら【待ってた】なんて言い回しはしないはずだよね…? というかそもそも未遂だったとはいえ一度、首を絞めて殺そうとした相手を前にして、普通挨拶したり話しかけたりするものなのかな…。 「ねっ!ねっ!それでさ、昨日はどうだったの!?」 「へ!?どうって…な、何が!?」 なんか今日の終夜くん…変にテンションが高いっていうか、やけに食い気味な気がする。 「ああもうっ!もったいぶらないでよ!昨日の電話!死にたがりオーディションのことだよ!あれってさ、やっぱり事務局からの電話だったんでしょ!?」 「え、いや…というか、終夜くんは学校行かなくていいの…?」 そうだ。朝から他校生がこんなところにいたら、いくらなんでもまずい気がする。 何より今の終夜くんは別の意味でもまずい。 「この際学校なんかどうでもいいよ!それより、早く教えてっ!!」 「~~~っ…!!もうっ!!話は後!ついてきて!」 苦肉の策だった。 もうどうにでもなれ、という気持ちでオレは終夜くんの手を引いて、とりあえずその場から離れることにした。 * 「あれ…ここって」 「オレの家だよ。昨日来たでしょ?」 「それは…そうだけど…」 「…入らないの?」 「は、入るよ!お邪魔…します…っ!」 今更、緊張でもしているんだろうか。 「じゃあ一緒にオレの部屋行こっか」 「う、うん…」 昨日は終夜くんを先に部屋に行かせたけど今日は違った。 ジュースなんて出さない。 終夜くんは大切な友達で親友でもあるけれど、今はもう状況が違うんだ。 オーディションを受けることになってしまったのは確かに自業自得かもしれないが、きっかけを作ったのは紛れもない終夜くんだ。 本来ならもう関わり合いたくない。 だけど、こうなってしまった以上関わらないわけにはいかない。 終夜くんがオレに話したいことがあるように、オレも終夜くんには話さなきゃいけないことが沢山あるのだから。 * 「適当に座って」 「う、うん…」 …あれ?今日はベッドに座らないんだ。 床に座り、妙にかしこまった感じで正座までしていた。 それに反してオレは椅子に座った。 あえて床に座ったことも正座していることも、特に追求しなかった。 終夜くんは今正座だから、状況としてオレは今終夜くんを見下ろす形になっている。 そんなオレの様子を察してか、終夜くんはこんなことを聞いてきた。 「あの…もしかして、怒ってる…?」 あくまで疑問形でそう尋ねてきた。 「…むしろ、怒ってないって思ってたの?」 質問を質問で返す。 むしろ何で怒ってないなんて思えるのだろうか。 若干イラッとしつつも話を続けた。 「ご、ごめん…でも、どうしても兎馬くんと一緒にオーディション受けたかったんだ…っ」 「そう…じゃあ良かったね。お望み通りオレも受けることになったよ」 「え…!!それって、本当!!?」 「うん、誰かさんのおかげでね」 皮肉たっぷりにそう答えた。 けど終夜くんにとってはもはやそんなことどうでもいいらしい。 「やったやった!良かったね!兎馬くん」 …ごめんといいつつ、どうやら本人は全くと言っていいほど反省している様子はない。 よっぽど嬉しいのか、ただただ喜んでいた。 喜びのあまりかさっきまで正座だったのにも関わらず、オレが受けると言った途端にすぐさま立ち上がった。 そして、そのままオレの両手を掴んで来ては何の疑いも無く彼は言う。 「一緒にがんばろうね!兎馬くん!」 「う、うん…っ」 思わず目を背けそうになった。 だって、あまりにも無垢な笑顔で笑うから。 思わず本来の目的を忘れて流されそうになりつつも、すぐさまオレは話の話題を変えた。 「あ、あのさ…オレからも一つ聞いてもいい?」 「?オーディションのこと?詳しいことなら、事務局の人に聞いた方がいいと思うけど…」 「いや…それもあるけど。そうじゃなくて。昨日のこと電話のこと聞きたいんだよね」 「電話のことって?」 「えーと…オレが事務局の人と電話で話してた時。あの時さ…終夜くん、どこまで話聞いた?」 「?べつに聞いてないけど…」 「ほんと?会話の内容何一つ聞いてない?」 「う、うん…だってあの後すぐに帰ったし、じゃなきゃこうして話聞きに来たりしないよ。そ…それに、あんなことされた後だったし…」 「…それも…そう…だね…」 …嘘をついている様子もない。 あんなこと、というのはオレが終夜くんの首を思わず締めたことを言っているんだろう。 「あの時はその…」 思わず謝りかけた。 けど。 「ー気にしないで」 オレの言葉を打ち消すかの様に、言葉を被せてきた。 「僕はそんなことくらいで兎馬くんを嫌いになったりしないから。だって、親友だもん。それくらい大丈夫!」 「終夜く、ん…」 この期に及んでまだオレを親友と言い切る終夜くん。 何で、どうして。 オーディションといい何でそこまでしてオレに拘るんだろう。 …首を絞められて、殺されかけたのに。 ・・・オレが怖くないの? 「それよりも、問題はこの先でしょ?僕たちにはもう両親がいないから、オーディションが終わるまでどうにかして生活していかなくちゃいけないんだよ?」 「あ…そっか」 たしかにそれは盲点だった。 オレと終夜くんには、もう両親はいない。 オーディションに参加しているとはいえ生活までは保証してくれない。 …その間、オレ達はどうやって生きていけばいいんだろう。 「…だからね、兎馬くんさえ良ければなんだけど…ボクと仲直りして欲しいんだ」 「仲直り…?」 「うん…だってまだ兎馬くん、僕のこと許してないでしょ?」 「そ、それは…」 否定は出来ない。 だけど、だけど…今はもう、 「…だけど、今はそんなこと言ってる場合じゃないと思うんだ」 …終夜くんに、先に言われてしまった。 「なにそれ…よりにもよって、終夜くんがそれ言っちゃうの?」 「うっ…やっぱり図々しかったかな…?」 「…ほんとだよ。もう…」 多分だけど、終夜くんがしきにオレをオーディションに誘っていたのはこういうことが理由なんだと思う。 オーディションには受けたい。 けど一人だと不安だった。不便で不安。 だからこそのオレだったんだ。 オレが巻き込んで欲しいなんて言っちゃったから…終夜くんはここぞとばかりにオレを巻き込もうとした。 巻き込んで、しまった。 …なんだ。結局これも、自業自得じゃないか。 「…いいよ。仲直り、しよっか…」 「え、い…いいの!?」 「うん。だって、オレ達は親友…なんでしょ?」 終夜くんはオレに殺されかけてもなお、オレを親友と言った。 こうなってしまった以上、オレもいい加減に腹を括らなきゃ。 少なくとも両親の秘密事態は、終夜くんには知られてないみたいだし… 「…じゃあ仲直りの拍手」 「うん!まずは一次審査、絶対合格しようね!」 こうして、オレ達は互いに握手を交わした。 ここからもう、いがみっ子なしだ。 「…あっそうだ。昨日飲めなかったオレンジジュースでも飲む?」 「そうだね!いっぱい話したら喉乾いちゃった!」 「実はオレも!じゃあ一緒にいこっか」 オレ達は何事もなかったみたいに、会話を交わしながら一階のキッチンに向かう。 ーその時だった。 部屋から出た後に…オレと終夜くん宛にメールが一件、受信されていた。 送信先は、死にたがりオーディション。 そして、件名にはこう書かれていた。 【一次審査のお知らせ】とーーー
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