Chapter1:死にたがりオーディション

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  「へ?オーディション…?」 予想外の質問につい戸惑ってしまう。 「うん、そう。といっても、普通のオーディションとは違う。死にたがりオーディションだよ」 「え?あ…う、うん…」 呆気に取られるとはまさにこのことだと思う。 さっきまでのオドオドしてた終夜くんとは明らかに雰囲気が、空気が違っていた。 こ…これが…あの、終夜くん? 「あの…き、聞いてる?」 「う、うん…聞いてるよ」 「……じゃあ行きながら話すから、ちゃんと聞いてね?」 「わ、わかったよ…」 一体何を話すんだろうと内心ドキドキだった。 でも、あの終夜くんがオレに聞いて欲しい話があるっていうなら友達として断る理由はなかった。 もしかしたらいじめの事と、何か関係があるのかもと思いオレはそのまま話を聞くことにした。 「で…その、死にたがりオーディション…だっけ?」 「うん、そう…!兎馬くんはそれ…聞いたことある?」 …アイドルとか芸能人とかのオーディションならともかく、死にたがりオーディションなんて聞いたこともない。 事務所の名前とか?それか、なんらかのドラマの名称から取ったとか? まぁそれにしても変わったオーディション名だとは思うけど…そもそもオーディション名に死が付くなんてそんなこと有り得るのかな。 「えーっと…ごめん。悪いけど、聞いたことないかな…」 「そっか…」 妙に残念そうな顔をする終夜くん。 こういう顔はいつもの終夜くんって感じなんだけど…。 やっぱり、さっき見たあの終夜くんが気になってしまう。 明らかに様子が違っていたし、わざわざオレに聞いてくるなんて何か理由があるとしか思えない。 「…力になれなくてごめんね。でも、それがどうかしたの?」 「い、いや…知らないならいいんだ!」 「えー、でも最初にこの話を持ち掛けたのは終夜くんなんだよ?中途半端に終わらすなんてずるいじゃん」 「そ、それはあくまで兎馬くんが知ってたらの話しでーー」 さっきまであんなに話したがってたくせに、オレが知らないと分かったら何も言わないつもりなわけ? 「どうしても言いたくないの?」 「うっ…」 終夜くんは頑なに言おうとしなかった。 もう、こんなことされたらますます気になって仕方がない。 というかもう、塾どころじゃなかった。 「…あ!!も…もう着いたから!僕先いくね!」 「え…ちょ、終夜くん!?」 オレの声も虚しく、いつのまにか着いていた塾を口実に終夜くんはそそくさと教室の方へ行ってしまった。 残念ながら、終夜くんとは同じ教室じゃない。 だけどまぁそれでもこんなに仲良くなったんだから、少しは信頼あると思ったのになぁ…結構ショックだ。 それとも仲良くなれたって思っていたのは…まさかオレだけ、とか…? いやいや…まさか。 それよりも、今はこんなこと気にしてる場合じゃない。 終夜くんが話してくれないなら…オレが自分で調べるしかないからね。 「…さて、オレも教室行かなきゃな」 こうしてオレは重い足取りで、自分の教室へと向かった。
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