Chapter1:死にたがりオーディション

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  …そうだ。 どうしてオレはこんな当たり前のことに気づかなかったんだろう。 死にたがりオーディションなんて、そんな大それた名前ばかり気にして肝心なことを忘れていた。 重要なのは、名前なんかじゃない。 「知りたい?」 「…当たり前だよ。オーディションっていうからには、その先に必ず何かあるものでしょ…?」 終夜くんは絶えず笑っている。 …なにが、そんなにおかしいんだろうか。 「…ごめん。兎馬くんが心配してくれてるのはわかってるんだけど…つい…ふふっ…」 「…もうっ!ついじゃないよ!一体、オレがどんな気持ちで…!!」 「うん…知ってるよ。なんたって親友だもん」 そう言われると何も言えなくなってしまう。 どうやら僕は終夜くんの親友という言葉に弱いらしい。 「…あのね、その資料の一番最後のページを見てみてよ」 「え、でもこういうのは普通順番ずつ…ッ」 「いいからいいから」 「ちょっ…!」 終夜くんに急かされて、一気に最後のページ…五ページ目を開く。 一気に開いたおかげか、そのページは見開きになっていることが分かった。 中央には【合格後】の文字。 …そして、その下には、こうつづられていた。 【合格後】 私達マネージメントのもとで、合格者全員の人生の成功を約束する。 そう、たったこれだけの記載だった。 わざわざ見開きにまでして、書くことなんだろうか。 …いや、それよりも、この人生の成功って…どういう意味なんだろう。 「あ、あの…終夜くん」 「ん?」 「その…これはどういう…?」 もはや理解の域を超えていた。 ただただ、意味が分からない。 …人生の成功? なんだよそれ、いくら馬鹿なオレだってこんなのに騙されるわけがない。 「?どうって?」 「だ、だって、いくらなんでもこんなの明らかに詐欺じゃないか!」 「え、どうしたの急に…」 「どうしたのじゃないって!いくら終夜くんが優しくてお人好しだとしても、こんなのに騙されちゃ駄目だよ!!」 「そ、そんな…!僕はべつに騙されてなんかないよ!」 珍しく終夜くんが声を上げる。 ああもう…ほんっとはこんなこと言いたくないけど、終夜くんを止めるにはこの方法しかない…っ! 「…ああもうっ!そんなに言うなら、この資料、終夜くんのお父さんとお母さんに見せるからね!!」 「…僕のお父さんとお母さん?」 「そう!いくらなんでも嫌でしょ?両親にこんなオーディションを受けようと思ってるなんてバレたくないよね?」 なんたって、最初の応募資格が【死にたいって思ってる人】なんだもん。 普通こんなの見たら、親なら当然オレ以上に止めるはずだ。 …だけど、終夜くんの口から出た言葉は思いがけない台詞だった。 「それは無理だよ。だって、僕のお父さんとお母さん…もう死んでるから」
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