Chapter1:死にたがりオーディション

9/18
前へ
/18ページ
次へ
  「ね?だから初めからそんなに心配する必要はなかったんだよ」 あっけらかんと答える。 それも、笑顔で答えていた。 …どうして? 資料も資料でおかしいところが沢山あるのに、どうして終夜くんはそのことに何一つ疑問を抱かないんだ…? 「…大丈夫?顔色悪いよ…?」 「べつに…平気…っ」 いつのまにか空になったオレンジジュースを手に取る。 オレは空っぽのジュースをストローで啜った。 最初は単なる緊張だったのに…今はとてもじゃないが、緊張なんて言葉に済まされるものではなかった。 …今はただ、平静を装うのに精一杯だった。 「…写真、そんなに気持ち悪かったの?」 「……ちがう…ッ…」 あえて、違うと答えた。 もちろんそれもあるけれど、それだけじゃない。 オレからしたら、今の終夜くんの方が何よりも気持ち悪かった。 ー写真だけじゃない。 ー資料だけじゃない。 終夜くんのこれまでの言動が、全てにおいて気持ち悪いと思ったんだ。 それでもまだ終夜くんを嫌いになれないのは、やっぱり親友だと思っているからなんだろうか。 「でも、その様子だと、もうこれ以上話出来そうにないよね…?」 「話…?話なら散々したじゃないか…!これ以上、何を話すって言うんだよ…っ」 「え、でもまだ本題に入ってないよ?」 「…本題?」 「うんだから、今日の目的だよ」 「?目的ってオーディションの話でしょ?」 「それは、あくまで前置きだよ。ただ本当に話するだけなら、わざわざ家に呼んだりしないよ」 「…どういう意味?」 「え、えっとね…」 「?」 なんだか落ち着かない様子だ。 ・・・なんだろう?言いにくい話? …でも、今更言いにくい話なんてあるんだろうか? 「あ、あのね。ここまで話しちゃったから、この際ハッキリ言うけど…実は兎馬くんにお願いがあるんだ」 「お願い?」 「う、うん!兎馬くんにも、このオーディションを受けて欲しいんだっ!!」 「…え?」 それは、思いがけない台詞だった。 …受ける?オレがこのオーディションを? 「あ、もちろん僕は受けるよ!なんたって、資料請求までしたんだもんね!だから、一緒に受けてみようよ!」 終夜くんは何故か興奮気味だった。 …ああ、そっか。これはオーディションだっけ。 オーディションってことは…資料請求だけで終わるわけじゃない。 ーーー受けてこそ、始まる。 それが、オーディション。 「終夜くん?聞いてる?」 「え、あっ…」 どうしよう、なんかもう頭がぐちゃぐちゃで何も考えられない。 大体なんでオレにこんなこと言うんだろう。 さっき、散々巻き込みたくないって…。 昨日だって、泣きながら言っていたのに。 「…ね?終夜くんは僕が心配なんでしょ?心配なんだったら…一緒に受けてくれるよね?」 「ーーー!!」 終夜くんの顔がグッと近付いた。 その瞬間、ぞわりとした悪寒が背筋をなぞった。 ー心配。確かに、オレはそう言った…けど。 「…や、やめてよッ!!」 オレは恐怖のあまり思わず終夜くんを突き飛ばした。 反射的だった為、思いっきり突き飛ばしてしまったせいか終夜くんは部屋のドア付近でもたれかかるようになっていた。 「あっ…ご、ごめん…!」 オレは慌てて終夜くんの元へ駆け寄った。 無意識だったとはいえ、突き飛ばすつもりはなかったのに…ッ 「だ、大丈夫…?」 すかさず、手を伸ばす。 けど、手を取ってはくれなかった。 「…………平気。こういうの、慣れているから」 …慣れている。つまり、こういうことも日頃からあったということだ。 珍しく声に怒気があるように聞こえた。 怒っているんだろうか…。 「あ、あの…終夜くん…?」 おそるおそる声を掛ける。 …言いにくいけど、今のうちにハッキリと断らなきゃ。 「…なに?」 「…ご、ごめん…!!悪いけどオレは…受けるつもりはないから!」 ハッキリと言い切った。 …大丈夫、いくら終夜くんでもここまで言えばきっと分かってくれるはずだ。 「ーだめ」 だけど、そんな願いも終夜くんには届かなかった。 オレと同じく、終夜くんまでもがハッキリとそう言い切ったのだ。 「な、何で…!!?」 当然の疑問だった。 「……駄目、だよ…。だって、親友でしょ?僕たち…」 終夜くんはそういうと、ゆっくりと立ち上がってドア付近に手を伸ばしていた。 「ちょ…ちょっと…何、してんの…?」 「ん…?別に何もしてないよ…?」 「じゃあ…その手は何ーー」 ーその時だった。 カチャリという小さな音が聞こえた。 「しゅ、終夜くん…今、なにしたの…?」 「別に…ただ鍵を掛けただけだよ」 さも当然のように、終夜くんは言った。
/18ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加