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閉めたばかりの戸が、外から揺らされたのだ。
有高は緊張して振り向くことができなかった。夜盗かと思ったが、金が目当てなら今頃乱暴に戸をぶち破っているだろう。
今度は戸が叩かれた。外の相手は害意がないのかもしれない。そして自らが医師であることを思い出す。診療の時間は終わっているが、患者が頼りにしているなら無視するわけにもいかない。
「何用かな」
できる限り穏やかな声で問いかける。どんな相手が現れても良いように身構えた。
「森島先生でいらっしゃいますか」
有高は言葉がなかった。わずかに硬さを帯びた声音は、三ヵ月前に突然姿を消した助手特有のものだ。
「……看板を見ておるだろう。ここには私しかおらん」
「森島先生、遅い時間に訪ねる無礼をお許しください。ニューマンです」
「今更何用だ」
絞り出した声が棘を帯びる。戸を隔てて聞こえた声は、英語を母語とする男のものだ。言葉における力の入れどころが違うせいか、常に不器用な印象を伴う声だったのを覚えている。三ヶ月でそれは変わらない。
「助けてほしい人がいます。どうか開けてください」
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