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有高は戸惑った。二年前、ウィリアム・ニューマンというアメリカ人の青年を弟子として診療所に置いたことがある。言葉には少々不自由していたが手際が良く、何より若くて体力があったから重宝していた。
経験を積んで成長していくニューマンが、ついに得られなかった息子のように思えて行く末を楽しみにしていた。それが三ヶ月前、何の前触れもなかった。
「ニューマンだというなら、何故私の前から姿を消したか言ってみろ」
覚えず、険しい声になってしまう。厳しい物言いにしょげることもあった青年が、戸の向こうでどんな顔をしているか気になった。
「話しますから、開けてください」
ニューマンの声に焦りが生じた。このまま押し問答をしていても埒が明かないし、戸の向こうにいるのがニューマンだと確信できた今、彼の口から事情を聞いてみたくなった。今を逃せばその機会はないだろう。
閂を外してニューマンを迎え入れる。雪が風に乗って内側に入り込んでくる。
有高は一瞬彼を追い出したくなった。ニューマンが伴っていたのは、最近梅毒検査で顔を合わせた遊女の小菊であった。
「馬鹿者、お前たち、自分が何をしているかわかっているのか」
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