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有高は瞬時に状況を悟った。籠の鳥である遊女が、梅毒検査でもないのに外にいる。まして書き入れ時の夜である。そして小菊が属する永真遊郭は、今でも外国人向けの性格を帯びている。
「お願いです先生、えいだけでも休ませてください」
それは有高も知らない、小菊の本名であった。それだけで二人が抜き差しならぬ関係なのがわかる。
有高は小菊を見遣った。ずっと顔を伏せたままなのは、気まずさだけではないだろう。健気に隠そうとしているが、息の荒さが見て取れる。今すぐにでも体を横たえたいはずだ。
「……やむを得ぬな」
そう言ってやると、ニューマンは安堵したように顔を輝かせた。小菊は男に支えられながら奥へと歩みを進める。どこへ寝かせれば良いか問われたので寝台を開けてやった。
それからニューマンは出ていこうとする。これから遊女と姿を消そうという外国人を匿うほど危険なことはないし、ニューマンもわきまえているのだろう。それでも彼は、玄関先でずっと寝台を気にしていた。
「夜明け前に戻ってきます。それが最後です」
硬さのある声を残して一歩外へ出たニューマンを、有高は追った。
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