おやすみまで3分

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おやすみまで3分

 「さあ、一思いにおやすみよ」  目を覚ましたら、いきなりサンタさんかと間違えるほどの髭を貯えた、声だけ異様に若い男にそう言われた。  反応に困ったので、とりあえず意味がわからないことを体で表現しようと、両手を上げようとした瞬間、全身に痛みが走った。よく見れば私の体は、あちこち真っ赤に染まっていた。所々肉まで飛び出ているし、お腹からは普通見えてはいけない臓物が顔を出している。驚く私の横で、なんて無茶するんだと男は嘆いていたのだが、嘆きついでにとんでもないことを言い出した。  「車に轢かれたてほやほやなんだから」  人の一大事を、焼きたてほやほやのパンみたいに言わないで欲しいのだが、今はそこに突っかかる場面ではないことは私にもわかる。 「轢かれたって、どういうこと」  私の体の損壊具合からみて、当事者が見立てるのもどうかと思うが、明らかに致命傷である。  しかし、私はピンピンして会話している。  私の違和感について、男はほら見てと、指さした。
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