最期の最期

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「お嬢さん、もうあと僅か。もうお嬢さんの体は虫の息。これが最期の最期」 サンタっぽい男は、泣きじゃくる私に急かすように言った。貴重な時間を泣いて終わるのか。とでも言うように。 私はせっかくの楽しい時間を最期まで楽しもうと、無理やり涙を引っ込めた。 「無難な人生を送ってきたはずなのにな」 「そうだね、これといって目新しいものはなさそう」 「相変わらず酷い」 「自分でそう言ったじゃない」 「そりゃそうだけど」 「けど、この3分は貴重だったな」 「へ」 「今まで何人もこうやって迎えにきたけど。お嬢さんみたいに最期に素直に盛大に狂った奴は初めて」 「何それ、褒められてない」 「褒めてないからね」 サンタっぽい男は、本当に見た目サンタっぽいから気を許しちゃうけど、結構痛烈だ。けれどこの飾らない本音っぽい感じが、私は心地よかった。 「でも泣いたあの時間で気づいたこともありそうだし」 「気づいたこと?」 「雲を掴むような感じでも、泣いたってことは、何か気づいたってことだろうし。退屈な今世だったなら、まあもう一回頑張ってみれば」 サンタっぽい男は優しいような、しょうがねえ奴と愛ある言葉を言ってくれそうな微妙な笑みを浮かべた。そして何処からともなく現れた木槌を私の頭上へ振り翳す。 サンタっぽい男に紡がれた言葉を咀嚼するには時間が足りず、私は一瞬にして霧散した。 「退屈なのも、楽しいのも、お嬢さんの感じ方、立ち振る舞いで簡単に変わる。今生の人生はありきたりだが、人が行き着く終着点だ。だがお嬢さんは、それを望まず狂うことの楽しさを知った。あの狂った様が3分で終わるにはあまりにも惜しい。まだ終わりではないよ。もう一度輪廻(まわ)っておいで」 私は最期を迎えた。 そしてまた私は生まれ落ちる。 前世の狂った様を胸に秘めて。
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