1 南へ

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 東の水平線から濃紺の空が流れている。  月はなく、天上いっぱいに広がる粒子のような星のきらめきが風もないのに揺れていた。  そこから夢が覚めていくかのように、空の色がぼんやりと青みを増していく。海上には炎のように白い霧が立ちこめて、まるで雲のように辺り一面をおおっていた。  今年最初の冬が来ようとしていた。  北の大陸からツグミが風を連れてきたのは、昨日のことだ。  その午後にはみんな冬支度をはじめていた。  少年がほうっと吐き出した息は綿毛のように真っ白だった。それが目の前で消えていく様子を見つめながら、彼はもう一度静かに息を吐いた。眠気に負けてまぶたが閉じるたび、空は刻々と変化をしていった。  中央諸島の北東に満月島と呼ばれる丸い形をした島がある。  その街の中心部にひときわ高くそびえるセントラルタワーの屋上で、子供たちが息をひそめて冬が来るのを待っていた。  凍ったように冷たい鉄格子の上に座り、おしゃべりをすることもなく視線を東の空に向けている。幼くやわらかな頬は桃色に染まり、ひっきりなしに白い吐息がもれている。  そして、震える小さな背中には、暗闇の中でも輝くような純白の翼が生えていた。
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