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「ジールの翼はカラスの羽根!」
後ろからそんな声が聞こえてくる。
カラスは飛べる。しかし、ニワトリは――
サキは夢中で歩き出した。
泥水のような濁った瞳が、心の中まで汚染していくようだった。
自分の瞳と翼の色は、まだ大丈夫だろうか。
ふと、そんなことを考えた途端に、夜風を浴びたみたいに身体の中が冷え冷えとした。なんだか吐き気がする。
背中はじわりと汗ばんで嫌な感じがした。
タワーを出ると北風が出迎えてくれた。翼の間に風が入りこみ、すっと背筋が涼しくなる。心地よいような薄気味悪いような居心地の悪さを感じて、助けを求めるように空を仰いだ。
冬がはじまると、空は灰青色に変わる。
セナの瞳はこんな色をしていた。
サキは冬になるたび、そう思う。
澄んでいたようにも思う。澄んでいなかったようにも思う。
セナが死んでから、三年になる。
あの日はもっと寒い日だった。
サキは翼を縮めながら、歩いて帰った。
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