3 セントラルタワー

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「ジールの翼はカラスの羽根!」  後ろからそんな声が聞こえてくる。  カラスは飛べる。しかし、ニワトリは――  サキは夢中で歩き出した。  泥水のような濁った瞳が、心の中まで汚染していくようだった。  自分の瞳と翼の色は、まだ大丈夫だろうか。  ふと、そんなことを考えた途端に、夜風を浴びたみたいに身体の中が冷え冷えとした。なんだか吐き気がする。  背中はじわりと汗ばんで嫌な感じがした。  タワーを出ると北風が出迎えてくれた。翼の間に風が入りこみ、すっと背筋が涼しくなる。心地よいような薄気味悪いような居心地の悪さを感じて、助けを求めるように空を仰いだ。  冬がはじまると、空は灰青色に変わる。  セナの瞳はこんな色をしていた。  サキは冬になるたび、そう思う。  澄んでいたようにも思う。澄んでいなかったようにも思う。  セナが死んでから、三年になる。  あの日はもっと寒い日だった。  サキは翼を縮めながら、歩いて帰った。
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