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4 セナ
アパートに戻ると赤ん坊の泣き声が聞こえてきた。
今朝また、鳥人が南から赤ん坊を連れてきたのだ。
サキは枯れ葉のように積もった羽根を踏みつけながらエントランスに入った。ここではろくに掃除をするものもいないし、掃除をしてもすぐに羽根が落ちるので床は絨毯のように茶けた羽根の残骸でおおわれていた。本当に鳥の巣のような茶色い住みかだった。
コンロも調理器具もないキッチンに入ると、テーブルの上にはフルーツケーキが置いてあった。手に取ろうとしたとき、視線を感じて入り口を振り返った。
「おかえり」
トパーズのようなオレンジ色の瞳と髪をもつ少女がうつむきがちに立っていた。きれいな髪をいつもおさげ髪にしているトリンという女の子だった。
サキは伸ばしていた手を引いた。
「それ、私が作ったの」
そう言われて、サキはケーキをひとかけら取った。
「自分で?」
「うん……教えてもらったの」
「誰に?」
問いつめるような口調だった。
案の定、トリンは言いにくそうに口をつぐんだ。
「人間に?」
サキがかわりに言うと、彼女は気まずそうにうなずいた。
サキは顔をしかめた。
少しためらったのち、それでもケーキを口の中に入れた。フルーツケーキは少しだけ焦げていた。
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