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「どう?」
「美味しいよ」
トリンは微笑んだ。
「人間と仲良くしてるのか?」
「お菓子を作るのが、おもしろくて……」
トリンは顔を赤らめて、もじもじとしている。
――来年、お前は南にいくんだろう? そんなこと覚えたって意味ないじゃないか。
そう言おうとしたけれど、ケーキを頬張っていたので言わなかった。それに、自分が言ってもなんの説得力もないことをサキは分かっていたからだ。
トリンはいつまでも戸口に立ったまま、落ち着かなげにしている。サキがケーキを食べ終えて指先をなめていても、まだうじうじとしていた。
「なに?」
サキはうんざりとして聞いた。
「市長の話、どうだった?」
「別に。いつもと一緒だよ。君たちの力になりたいって。ばかばかしい。人間に何が分かるって言うんだか」
サキが冷たく答えるとトリンは困ったように笑った。
そして、しばらくしてから立ち去っていった。
トリンが最近ケーキ屋で働いている人間の少年と仲良くしていることをサキは知っていた。いや、口に出さないだけで皆知っていることだ。
その少年と付き合うようになってから、トリンは奥歯にものがはさまったような態度をとることが多くなった気がする。
人間の影響だろうか。
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