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いや、自分たちだってそれを見て見ぬふりをしている。
みんな人間に近づいている?
近づけるわけもないのに?
ふいに、自分の視界を透明な霧がおおっているような気がした。
急に自分が今までどのように生きていたのか分からなくなったようだった。
南に行かない鳥人がどうなるのか。
サキはぞっとして、そんな心の反応を示した自分自身に驚いていた。
心の重りを払うように、彼は乱暴に部屋を飛びだした。
日が短くなり、昼を過ぎたばかりだというのに、もう空の色が落ちて暗い影がおおい被さってこようとしていた。気持ちの動揺に呼応しているのか翼までかさかさとして具合が悪いようだった。
羽根が言うことを聞かない。翼の付け根も心なしか痛いような気がする。
そんなことをいちいち気にしていると、身体のすべてが自分のものではないような気がした。肉体がここではないどこかにあって、夢の中で自分を認識しているような、切り離された違和感。
それも、冬がはじまったせいだろうか、と思った。
そう思いはじめると、確かに冬の景色は妙によそよそしい、としか思えなくなった。
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