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気がつくと、サキは東区にほど近い雑木林に囲まれた岬に来ていた。
半透明の鉱石のような曇った波が静かに、けれど、幾重にも浜に打ち寄せている。水平線は黒い雲でおおわれていて、それが心にも反映するように嫌な感じをおこさせた。
サキは岬にひっそりとたたずむ石碑の前にしゃがみこんだ。潮風に削られている無骨な石には、下手くそな文字で名前が刻まれている。
それは、セナの墓だった。
冬の来る前日に供えた花は、すでに花びらが散っている。ざらざらとした石の表面をなでると、簡単に粉状になってしまうほどやわらかい。十年も経てば風化してしまうのではないかと思うくらいだった。
「セナ、僕は行かなかったよ」
サキは穏やかな声で独り言を言った。
「それを知ったら、セナは笑うかな?」
まるで風が返事をしてくれるのを待つように、彼は少し黙った。
「でも、僕は、セナを置いてはいけないよ」
サキは一人で苦笑した。
潮風が強くなってきた。
水平線の雲から糸のように細い閃光が走った。
サキは立ち上がると、それを凝視した。
まるで雲と海面の隙間を精霊たちが移動しているかのように、紫色や緑色、黄色と次々に色を変えながら光っていた。
彼はしばらく魅入っていた。
美しいと感じていた。
しかし、それが稲妻だということを理解した瞬間に、足が震えた。
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