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なぜ、それを見た瞬間に気がつかなかったのか、自分でも不思議だった。
ともかく、一度理解したあとからは、水平線が雷に焼かれているようにしか見えず、不吉な光景としか思えなかった。隠れていた不安な気持ちが心臓を打ち、サキはみぞおちを押さえた。
鳥人は雷を恐れる。
それもまた、彼らの本能だった。
サキがようやく帰路についたころには、すでに星が出ていた。冬の星空は暴力的なほどに輝いており、光の吸収率が高い鳥人の瞳には、夜空は騒がしすぎるほどだった。
何度もまぶたを閉じながら歩いたせいで、アパートについたときにはだいぶ夜がふけてしまった。
赤ん坊が激しく泣いている。
おそらく、星空が怖いのだろう。こんなとき、子守歌の上手い女の子がいればいいのだけれど、彼女は昨日、南に行ってしまった。ユリの花びらから落ちる朝露みたいに清潔で美しい歌声だった。
かわりに誰かの悲しげな子守歌が聞こえてくる。
サキは鬱屈した気持ちをまぎらわすためにホットミルクを一口飲むと、すぐに眠りに落ちてしまった。
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