4 セナ

7/10
前へ
/160ページ
次へ
 ひとつだけしかない翼は彫刻でできているのかと思うほど端正だった。その翼を悠々と広げ風になびかせている姿は、神話に出てくる英雄のように魅力的だった。  けれど、空を飛ぶことはできなかった。  だからこそよけいに、そんな姿が悲劇をまとって美しく見えたのかも知れない。  それでも自身の器用さで運動は得意だった。足も速く、木登りも上手かった。太陽のように明るく、風のようにこだわりのない性格で、そんな態度が多くのものに愛されていた。  異端のものは容赦なく差別される鳥人の世界で、セナは確かに特別だった。それどころか、人間の友達も多かった。  それは、彼が健康的な肌の色をしていて発育もよく、人間と並んでいても変わりがないように見えたこと。そして何より、彼が人間のことを好きだったせいだろう。  鳥人は文字を読むのが苦手だが、セナは人間の作った物語を読むのが好きだった。夜更かしまでして本を読みふける姿にサキは呆れることも多かった。
/160ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加