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ひとしきり滑りおわると、サキとセナの頬は同じように赤く染まっていた。涙はすっかり乾いていたが、背中が汗ばんで羽根が張りつくのがひどく不快だった。
翼を広げて熱を冷ましていると、空から猫の鳴き声を聞いた。
サキが見上げると、五、六メートルほどの高さがある時計塔の上から子猫が顔をのぞかせていた。
なぜそんなところに子猫がいるのか見当もつかなかったが、子猫はおびえているようで、サキと目が合うと、甘えるように無邪気に鳴いた。
そして、子供たちがその下に集まってくると、さらにそこから降りようとしはじめた。
――だめだ! じっとしてろ!
そんな言葉が通じるはずもなく、大騒ぎする子供たちの様子に子猫はむしろ興奮した様子だった。いっこくもはやく子供たちに混ざりたいとでもいうように、落ち着きをなくしていた。
子猫の鳴き声が耳元から離れなかった。
空と同じ色をしたセナの瞳が輝いた。
――今、行く。
そう言ったセナの顔にはためらいはなかった。
その瞬間、サキは血の気が引くのを感じていた。
人間の子供たちが声援をおくる中、サキは一人で呆然と立ち尽くしていた。記憶の中のフィルムは一場面一場面がゆっくりと流れすぎて、どこを選んでも引き返す場面はあったのではないかと後悔する。しかし、実際は、何が事実で何が妄想か、時間がどのように進んでいたのかもよく覚えていない。
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