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サキはふいに思い出をたぐるとき、セナが美しい翼で空を飛んでいる光景を見ることもあった。想像だとは思えないような生々しいイメージに、頭が混乱しそうになる。
あのときのこともそうだ。
灰青色の空を背景に、セナがやってくる姿が見える。
空が傾いた、と思ったときには、すべてが終わったあとだった。
セナは寒々とした土の上に横たわっていた。
その腕の中で子猫が鳴いていた。
その鳴き声が今でも聞こえてくるような気がする。
あれ以来、中央区の公園で鳥人と人間の子供が一緒に遊ぶ姿を見たことがない。もちろん、サキの足が遠のいたことにも理由がある。当然、人間の子供と遊ぶこともなくなり、人間の子供たちのほうでも鳥人をさけるようになった気がする。
セナの美しい翼が土に汚れ、羽根が無惨に飛び散った姿を見て、人間の子供たちは言葉を失い青い顔をしていた。それは、見てはいけないものを見てしまった、という顔だった。
静かに、怯えるように彼らは去っていった。
公園は閑散としている。
湖は人知れず凍りつき、銀色のなめらかな表面を光らせる。そんな悲劇すら、起こったことを知らないとでもいうように。
もしかしたら本当に、何もかもがただの空想だったのではないか、と考えてみることがある。セナという兄弟すら本当はいなかったとしたら……?
バカらしくなる一方で、なぜだかふっと安堵することがあった。
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