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5 スバル
サキはまた眠っていたようだった。
がらんとした教室には人の気配も残ってはいない。
今日は「理科」の授業のはずだったが、硝子のコップに銀色の鉱石を入れているところまでしか覚えていなかった。それがあの凍った湖の色に似ていたからか、昔の夢を見てしまった。
サキはソファに残った羽根を拾い集めてゴミ箱に捨てると、よだれのあとを拭きながら外へ出た。
今日は人間たちの休日のようで、いつもよりも人が多い。
サキは食堂へ降りて、バナナとレーズンのパンプディングをつまらなさそうに食べると、そそくさとタワーをあとにしようとした。
「あの!」
そう声をかけられたのはエレベーターを降りてエントランスに入ったところだった。
振り返ると、まだ七、八歳ほどの人間の少年が顔を真っ赤にしてサキを見つめていた。あわてて追いかけてきたのか、息が上がっている。
サキはいぶかしげに少年を見た。
体の大きさはサキより少し小さいくらいで、栗色の癖毛が大きなキャスケット帽からはみ出している。格子柄のズボンからのぞく膝小僧には目を引くぐらい大きな絆創膏が張ってあった。
「鳥人さん、ですか?」
息を吸いこんだ勢いのわりには弱々しい声で少年は言った。
サキが黙っていると、少年は同じ台詞を繰り返した。
「鳥人さん、ですか?」
「見れば分かるだろ」
ため息をついてサキは言った。
「だよね」
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