5 スバル

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 サキは驚いてスバルを見た。 「だって、僕も空を飛びたいんだもん」  スバルは上気した顔で、きらきらとレンガ色の瞳を輝かせていた。  サキは胸の奥にひやりとしたものを感じた。 「人間のくせに、何言ってるんだよ」 「なんで? おかしいの?」 「人間が空なんて飛べるわけないだろ」 「そんなことないよ」  サキは眉をひそめてスバルを見た。 「だって、北の大陸では空を飛ぶ乗り物が発明されたんだって、パパが言ってたんだ」 「空を飛ぶ乗り物?」 「うん。僕のパパは今、北の大陸にいるんだ」 「空を飛ぶ乗り物ってなんだよ?」 「あのね、おっきな翼があって、プロペラが回って、人間が乗って、ガソリンで動くんだって」 「ガソリン? よく分からないけど……」 「うん、僕もよく分からない」  脳天気なスバルの様子に、サキは脱力する。 「なんだよそれ。絵本の話か?」 「違うよ! 本当にあるんだよ!」 「本当に?」 「うん。飛んだんだって!」 「人間が?」 「うん、誰でも飛べるんだよ!」  サキは口をつぐんだ。  人間が空を飛ぶ?  いったいなんのために?  イチイ市長が北の大陸では鳥人が戻ってこない地域があると言っていたことを思い出した。もしかして人間は、鳥人を絶滅させるために空を飛ぶのだろうか?  家畜、奴隷、絶滅。そんな言葉がサキの頭の中をぐるぐるとまわった。指先が、翼の先が、冷たく小刻みに震えた。それは、自分の意志ではなく本能の恐れだった。
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