5 スバル

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 サキはそれを気取られまいと、手をにぎった。  しかし、翼の震えはどうしようもなかった。 「それでどうするんだ?」 「え?」 「空を飛んで、どうするんだよ?」  スバルはぽかんとしていた。 「お前は、空が飛べたらどうするんだよ?」  サキはいらいらとしていた。  声は強ばり、震えを隠すために大きな声を出していた。スバルはふっと口を閉じて顔を曇らせると、戸惑ったようにうつむいた。 「パパに会いに行くんだ。北の大陸まで飛んでいくの」 「船があるだろう?」 「冬だから」  北の海は冬になるとひどい嵐と氷山で覆われるため、冬の運航は困難だった。 「それに船は時間もお金もいっぱいかかるって」 「春になれば帰ってくるだろ?」  スバルは首をふった。 「帰ってこないよ。もう、帰ってこないってママが言った……」  スバルの目から突然涙がこぼれた。  サキはぎょっとする。  どうしたらよいのか分からず、あたふたと周囲を見回しては頭をかいた。 「一生会えないわけじゃないだろ?」 「でも、ママが会うのはダメだって」 「じゃあ、諦めるしかないだろ」  スバルの泣き声が大きくなった。  サキは静かにため息をついた。 「人間はバカだな。必要なものはなんでも作って手に入れるくせに、父親がいないだけで泣くんだから……」  感情のない言葉とは裏腹に、サキの胸はしくしくと痛んだ。 ――僕だって。
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