4人が本棚に入れています
本棚に追加
サキはそれを気取られまいと、手をにぎった。
しかし、翼の震えはどうしようもなかった。
「それでどうするんだ?」
「え?」
「空を飛んで、どうするんだよ?」
スバルはぽかんとしていた。
「お前は、空が飛べたらどうするんだよ?」
サキはいらいらとしていた。
声は強ばり、震えを隠すために大きな声を出していた。スバルはふっと口を閉じて顔を曇らせると、戸惑ったようにうつむいた。
「パパに会いに行くんだ。北の大陸まで飛んでいくの」
「船があるだろう?」
「冬だから」
北の海は冬になるとひどい嵐と氷山で覆われるため、冬の運航は困難だった。
「それに船は時間もお金もいっぱいかかるって」
「春になれば帰ってくるだろ?」
スバルは首をふった。
「帰ってこないよ。もう、帰ってこないってママが言った……」
スバルの目から突然涙がこぼれた。
サキはぎょっとする。
どうしたらよいのか分からず、あたふたと周囲を見回しては頭をかいた。
「一生会えないわけじゃないだろ?」
「でも、ママが会うのはダメだって」
「じゃあ、諦めるしかないだろ」
スバルの泣き声が大きくなった。
サキは静かにため息をついた。
「人間はバカだな。必要なものはなんでも作って手に入れるくせに、父親がいないだけで泣くんだから……」
感情のない言葉とは裏腹に、サキの胸はしくしくと痛んだ。
――僕だって。
最初のコメントを投稿しよう!