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サキが睨みつけるように鋭い視線をおくると、店主は手を振りながら、
「冗談だ。安心しろ、うちでは赤ん坊のは買い取ってない。ただ、北では鳥人の需要が高まってるらしくてな。お偉いさんたちが鳥人に関する規制を強めたことで、逆に価値が高まってるようだ。ここらはまだ大丈夫だと思うが、物騒な噂も聞くから、まあ、お前さんたちも気をつけたほうがいい」
と言い、押し黙ったサキの肩をぽんっと叩くと、
「正直に言って、俺はお前さんが南に行かなくてよかったと思ってるぞ」
と金色の歯を見せて笑った。
サキは金貨を握りしめて、無言で店を出た。
外に出ると、冬の透明な光に心が洗われるような陳腐な感動を覚えて泣きたくなった。オイルを塗られた部分が気持ち悪く、まるでそれが頭の中まで染みこんで血のめぐりを邪魔しているかのように頭が重かった。
サキはふらふらと歩きだしたが、ベンチを見かけるとたまらずそこに座りこんだ。血が正常に流れていくのを待つように、うなだれてじっと目をつむった。
「サキ」
名前を呼ばれたような気がして顔をあげると、トリンが空を飛んでいるのが見えた。彼女はすべるように目の前にやってきた。
「赤ちゃんが盗まれたの」
トリンは頬を真っ赤にしていたが、その表情はあきらかに青ざめていた。
サキは唇をかんだ。
先ほどの店主の言葉がまだ耳元にはっきりと残っている。
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