1 南へ

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 子供たちはそれでも口をきくことはなく、東と南の空をもどかしそうに交互に見つめていた。  一筋の曙光が線を引く。  黄金の光があふれだす。  ――南へ!  やわらかな金色の朝日が閃光のように空をかけ、それに導かれるように鳥人の子供たちはつぎつぎと南の空へと飛び出していった。  まぶしく輝く太陽がすべてを黄金色に染めていく。  霧はますます濃度を増して、天国へと続く道を作っているかのようだった。  白い翼も黄金色に輝いている。  そのダイヤモンドのような光の集団はあっという間に空をおおいつくし、南へと流れていく。翼をもてあそぼうとする風の音と風をとらえようとする翼の音が音楽を奏でているかのようだった。  人間たちは暖炉の火を燃やし、窓硝子に額をつけながら、輝く雪が霧の中から落ちてくる光景を恍惚とながめていた。  太陽がゆっくりと上り、霧もしだいに薄れてくる。  そして、西の端まで明るくなるころには、鳥人の群は晴れ渡る青い空の雲のひとつになっていた。  すっかり霧の晴れた地上では雪の羽毛が積もっていた。ところがそれは、一瞬で冬が終わってしまったかのようにみるみるうちに黄ばんでいった。  夢から覚めた人間たちがようやく屋外にでると、キツネにつままれたかのようにため息をつくのだった。
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