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7 命日
セナの眠る岬は、彼のお気に入りの場所だった。
たしかに南の水平線はよく見えるけれど、人気もなく、雑木林で日も陰ることの多い寂しげな場所をどうしてセナが好んだのか、サキは今でもよく分からなかった。
サキは墓石の前に花を置いた。そして、平らな水平線を見つめた。
雲はブラシをかけられたなだらかな絨毯のように天上をおおい、その隙間からわずかに紫がかった薄明かりが漏れている。その下の群青色の海はまるでおびえているかのように静かだった。波一つたてることもなく、目を閉じて悪夢がすぎるのを待っているようにも見える。
この先には何があるのだろう?
それは海が見ている夢の続きだろうか?
セナはその先に何を見ていたのだろう?
サキは感傷的な気分を振り払うように首をふった。
生まれたとき、同じカゴに入れられたときからセナのことはよく知っているはずだった。それなのになぜ、面影を求めて見えないものばかりを探してしまうのだろう?
そうして知らず知らずのうちに、面影は虚像に変わり、思い出は妄想に支配されてしまう。
何が本当か分からなくなってしまう。
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