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サキは大きく息を吐き出した。
酸欠になった肺の中に冷たい空気が入ってくる。内側から身体が凍っていくようだった。
夕食の時間が終わる前に温かいスープを飲みに行こう。そう思って後ろを振り返ると、薄暗がりの中に黒い影が立っていた。
「ジール」
不愉快な感情が胸を染める前に、サキはそれを声にして捨てた。とげのある響きを敏感に感じ取ったジールは苦笑いを浮かべていた。
「お前に会いに来たわけじゃないんだから、そんなに嫌そうな顔をするなよ」
「じゃあ、何しに来たんだ」
「墓参りぐらいしてもいいだろ?」
ジールの手には白いカーネーションが握られている。
「今日は命日だしな」
「知ってたのか?」
「当たり前だろ。それに、俺もあそこにいたからな」
「お前が?」
「お前には俺の姿が目に入らないらしいが」
サキはふてくされたように顔を背けた。
セナとは生まれたときからいつも一緒にいたと思っていたけれど、ジールと親しくしていたことなんてちっとも知らなかった。
ジールの言うとおり、サキには彼の姿が見えていなかったのかもしれない。
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