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その背中の黒い翼をあらためて観察してみると、毒々しいまでの黒い光沢は、どこか知らない世界の生き物のようだった。それがむしろ新鮮な驚きをもっているようにも思え、サキは思わず手を触れそうになった。
ジールが花を手向けて立ち上がると、サキははっとして冷や汗をかいた。
「そういえばお前、人間のお友達ができたそうじゃないか」
「は?」
「タワーのエントランスで、人間と仲良くおしゃべりしてたって噂になってたぞ。最近、仲間たちには冷たいらしいが、まさか、本当にあっち側に行くつもりじゃないだろうな?」
ジールはにやにや笑いながらサキを見下ろしていた。
「セナも人間と親しかったからな」
「違う。友達じゃない。つきまとわれただけだ。妙な噂を広めるなよ」
「俺が広めてるわけじゃないさ。でもまあ、俺は別にいいと思うけどね、人間の友達も」
「よければ紹介してやってもいいけど」
ジールは笑った。
それがどういう意味の笑いなのか分からなかったことが、サキをいらだたせた。
「人間は誰もここへは来ない」
サキは再び石碑の前にしゃがみこんだ。無造作に置かれた白いユリとカーネーションが冬の風に寒そうに揺られている。
「一緒に遊んでいた子供たちも、あの日から、まるで汚いものでも見るみたいに――」
「驚いたんだろ」
「人間にはあんな立派な墓地があるのに、鳥人の死を嫌うのか」
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