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「なんで、そう言える?」
視線の端で黒い影がちらちらしている。
サキは先ほどの好奇心に満たされた衝動を思い出して、顔をしかめた。
「北には空を飛ぶ乗り物があるんだそうだ」
「空を飛ぶ乗り物?」
ジールは、サキがスバルにした反応とそっくりな調子で言い返した。
「誰でも空を飛べるらしい」
「へえ……」
「それがあればお前も飛べるんじゃないか?」
「ご親切にどうも」
ジールは皮肉交じりに答えたが、サキは聞いていない様子だった。
「人間って変だ。翼もないのに、空を飛ぼうなんて」
「翼がないからだろ?」
サキはその言葉の意味を考えるために、数秒沈黙した。
「なんで?」
しかし、答えは出なかった。
「なんで、翼がないのに飛ぶ必要なんてあるんだよ? 翼があるから飛ばなきゃいけないのに、翼がないなら飛ぶ必要なんてないじゃないか」
サキは独り言のようにつぶやいた。
ジールは困惑したような哀れむような、そして少し笑うような複雑な表情でサキを見下ろしていた。
「お前にとって飛ぶことは義務なのか?」
「義務?」
今度はサキのほうが困惑する番だった。
「無駄なこと考えても仕方ないだろ」
サキはむっとした。
「なんで無駄なんだよ?」
「飛びたいか飛びたくないか、それだけでいいだろ」
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