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サキは何も答えられす、膝を抱え、翼を丸めてうずくまった。冷えた身体がやわらかく落ち着いていくようだった。
「今夜から雪が降るそうだぞ」
ジールの声は夢の中から聞こえるように遠かった。
「北の大陸ってどんなところか知ってるか?」
「北? 北のことなんかに興味ないな」
「能天気なやつ」
「なんだよ」
ジールはため息をついた。
「北の鳥人は絶滅するかもしれないらしい。もしも、世界中の人間たちが空を飛ぶようになったら、鳥人はみんな絶滅するんだ」
「なんだよ、それ。鳥人になんの関係があるんだよ?」
「僕たちは、空を飛ぶことしか能がない。人間のように知恵も技術もない。いずれ理性も失ってしまったら、僕たちはなんのために生きるんだろう?」
サキは閉じた翼の間から、くたびれはじめた白い花びらを見つめていた。鳥人の羽根は枯れる花よりもはやく死ぬのだ。それは、鳥人の命も同じだ。
「お前、人間に憧れてるのか?」
はっとして、サキは顔を上げた。
ジールの瞳は静かだった。
胸の奥からわき上がった怒りをサキは扱いきれず、わなわなと震えた。複雑な思いがこみあげてきたが、上手く言葉を発することができなかった。
「違う!」
そう一言、叫ぶことが精一杯だった。
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