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2 サキとジール
落ち葉のように羽根が積もったセントラルタワーの屋上で、サキは一人で震えていた。
鉄格子をつかむ手は凍りつき、感覚を失っている。
透き通る琥珀色の瞳は南の水平線を映したまま揺らぎもしなかった。
「行かないのか?」
ふいに声をかけられ、サキは驚いて後ろを振り向いた。
そこには鳥人には珍しい長身の少年が立っている。
しかし、もっと目を引くのは、翼が黒いことだ。そのうえ不格好に短くなっている。
サキは顔をしかめた。
「もう、みんな行っちゃったぞ」
黒い翼の少年はサキの足下にやってきた。そして、鉄格子をつかむと、もう何も見えない南の水平線を見つめ、
「行かないのか?」
と再び聞いた。
「勝手だろ」
サキは格子から飛び降りると、南の空に背を向けた。
「なんで行かなかったんだよ?」
「お前には関係ないだろ」
サキはいらただしげに答えた。
「お前は鳥人だろう?」
サキはきっと少年をにらみつけ、
「そう言うお前はどうなんだよ、ジール」
と吐き捨てるように言った。
ジールは雨雲のような灰色の瞳でサキを見た。
その不安定な色に、反射的に目をそらしてしまう。
「もちろん、俺だって鳥人だ」
ジールは自虐的に言う。彼の翼は影のように黒い。
ジールは今年十五歳になる。
長い身体と黒い翼のせいで空を飛ぶことができないことは、この街の者なら誰もが知っていることだった。
「逃げるのか?」
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