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「なんだよ、逃げるって」
「もしかして、怖いんじゃないのか?」
サキははっとして、またジールをにらみつけた。
「違う」
「じゃあ、なんで行かないんだよ?」
「お前には関係ない」
ジールは何かを考えるように瞳をふせると、数秒おいてから灰色の瞳でサキをとらえた。光と闇が混同しているかのような瞳は、ふいに心の隙間を盗み見られそうで緊張してしまう。それが、彼に弱みを握られているみたいなので、サキはその瞳の色が気に入らなかった。
「じゃあ、ずっとここで暮らしていくつもりなのか?」
サキは答えない。
「南に行けない鳥人の末路を、お前だって知らないわけじゃないだろ?」
無愛想を保っていたサキの顔がさっと青くなった。
ジールは視線を地上へと向ける。
地上では、豆粒みたいな人間たちがたくさん集まっている様子が見える。愚痴を言い合いながら必死で羽根を掃除している姿が目に浮かぶようだった。
「鳥人はただでさえ人間たちに疎まれているんだぞ? そのうえ、家畜や奴隷のように使われても平気なのか? お前はきれいな白い翼を二枚もっているから、愛玩用にしてもらえるかもしれないけど」
「バカなこと言うのはやめろよ」
サキは軽蔑的な視線をむける。
「でも、俺たちはいずれ理性を失うんだぞ」
ジールははるか地上を見下ろしながら言った。
その陰鬱な瞳は感情が読みとりづらく、それが余計に不気味な感じを与えていた。
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