2 サキとジール

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 サキは言葉をのんだ。  飛ぶことのできない鳥人がいないわけではない。  ジールのように生まれつきのものだったり、事故や病気で飛べなくなる鳥人もまれにいる。当然、南に行けない鳥人は人間のように暮らしていかなければならないが、彼らは人間で言う成人の年を過ぎると人としての理性を失ってしまうのだという。  まず、言葉を、次に表情を……そして本能を残して、すべてを失ってしまうのだという。  それは、南に行くことができなかったことの弊害なのか、鳥人本来の生態なのかは分からない。  しかし、それよりも恐怖なのは、大陸で理性を失った鳥人たちは、人間にペットのように飼われて捨てられるのだという。  そんな光景をサキは実際に見たことはない。そんなものは都市伝説にすぎない、と思う。  けれど、嘘と言い切ることができないのは、人間に対する不信感のせいかもしれない。 「僕は違う。僕はただ、今は、行きたくなかっただけだ」 「行きたくない? 本能に逆らって?」  サキは一瞬だけ押し黙った。 「僕はお前とは違う。お前のような異端と一緒にするな」  ジールは真剣な顔つきでサキを見た。  青白い頬がいつもより青ざめていた。  サキははっとした。しかし、遅かった。 「お前がそれを言うのか?」  見下ろすジールの瞳は濁っている。  水晶のように澄んだ鳥人の瞳とはずいぶん違う。サキは秘密が隠されているような暗い瞳に恐怖を覚え、また目をそらした。
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