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双六
「馬鹿もん!なぜお国の為に命を捧げますと言えんのだ!貴様!それでも日本男児か!歯を食いしばれーっ!」
バシ―ッ!と激しいビンタ、パンチを何度も食らわせられる男の子。
昭和の戦前だか戦中だかの映画。
私達三人はポテチをポリポリ食べながらその映画をスマホで観ていた。
人気のタレントが演じてるというので観てみただけどドン引き。
痛そうだなぁ。アレマジで叩かれてるよ。体当たり演技だ。
「ねぇ、なんで国の為に命捨てないといかんの?そんな時代信じられん。」
「教科書で『君しにたもうことなかれ~』とかなかったっけ。本来は人の為に国があるような気がするんだけど、逆じゃね?」
「ぶっちゃけ国なんて人が居られる場所として安全安心なら私はそれでいいんだけど。命捧げないと国って存続できんのか。」
ちょっとクールな人間に憧れて「ぶってる」子は、じゅーっとストローでジュースを吸って飲み込んだ。
「存続の為に政治家が甘い汁吸ってるらしいね。自分たちだけは安全な場所に隠れて、庶民の犠牲とか兵士に命捧げよ的な?」
「えー私アタマ悪いから何言ってるかわかんなーい」
語尾にハートが付きそうなアニメ声のもう一人が言う。
私もわからない。
大人たちなら分かってますって説教こいて実はわかってないのを、私たちはなんとなく感じている。
表向きでは知ったかぶりな正論吐いても現実に起こってる事には見て見ぬふり。
虐めはありませんって隠蔽する。パワハラセクハラその他然り。俺らの為に犠牲になれよって暗に言ってる。
痛いとこ突くと黙っちゃうのはマシな方。逆ギレしてこっちが教師から暴力の上、更に隠蔽される。親は親でコトを益々複雑にややこしくしてくれる。
もう面倒だから表向きでは大人たちに気に入られるような人間の「ふり」を、私達はしてしまう。
この廃屋は私達の隠れ家だ。いつ壊されるかもわからない秘密の場所。
私たちの秘密の小さな小さな国。学校サボって入り浸ってる。
ポケットWi-Fiでスマホ見たり食料やネイルやら、まるでキャンプのようにシュラフまで持ち込んで、くだらないお喋りしたりして怠惰に過ごす。それこそ学校や家やどこにも安全安心の居場所がない私にはこの廃屋が、ボロでも心には救いの場所だった。
ぶっちゃけ生まれてきたくなかった。成人するまでに死にたい。
そんなこと言う奴に限って長生きすんだよって二人には言われるけど。
「双六だな」
小さい時、お正月におばあちゃんとやったすごろくを思い出す。
「なにそれ」
「息してるのもしんどいのにさー。生きるのって双六だなって。」
「はぁ?意味わかんない」
「ここ見つけてくれたのアンタだけどさ…いつどうなるかわからんでしょーが。双六の上がりになったら、やったー!ついに終わったーって思えるの。そんな感じで終わりたい。」
「それって、死ぬ時が双六の上りってこと?」
「うん。おばあちゃんとやった双六の紙、絵がすごく可愛くて綺麗だった。」
「お前のゆーことはよーわからん。」
「あたしなんとなく分かる気がするー。」
私アタマ悪いからわかんないー、が口癖のツインテールはのんびり言った。
「マジか。」
「うん。そのすごろくの紙、綺麗だったんでしょ?上りも到着!って感じだから、もっと綺麗な紙だったらいいねー。可愛くて綺麗な色と絵でいっぱいなの。」
そうか。この頭の中がお花畑でピンクの象が住んでいると自分で言ってたけど。
それはこの子の密かな武器でひみつ道具かもしれない。
この子はいつもわかんないって言ってるけど本当は「能ある鷹は爪を隠す」ってやつ、なのか?
いや、どっちでもいい。
双六の上り。
私は自分の上りに、綺麗な色の絵でいっぱいの上りにしよう。
そんでこの腐った地球の双六からやっと上がるんだ。
私ははじめて口がほころんだ。
帰り道、書店で「大人のぬりえ」を買った。
イメトレだ。と思ったら色鉛筆100色セット、てのが目に入って唾飲んだ。
他にも画材が沢山。パステルとか色々ある。
…バイトだな。
生きるには何事もカネがかかる。
棺桶もカネがかかる。シビアだ。
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