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切り裂きジャック
「ねぇ、また出たんだって!」
コーヒーショップでノートパソコンを開いていると、近くの席から話し声が聞こえてきた。
「あぁ、何人目だっけ?怖いよねぇ。」
「でもざまぁって気もちょっとする。大きな声じゃ言えないけど、女の敵って奴ばっかりじゃん。」
話しているのは若い女性3人。姦しいとはこの事か。
「何の話?」
「ほらぁ、最近起きてる連続事件。個人的には現代版切り裂きジャックみたいって思ったんだけど。」
「えー?全然違うでしょ。だって切るとこ限定し過ぎじゃない?」
事件というのは、何者かに襲われた男性が局部を切断されてしまったという連続事件だ。切断されたモノは全て行方不明。大量出血で死んだ者もいる。助かった者もいるが、誰もが口を閉ざしている。後に被害者は全て性犯罪者だった事が判明。性犯罪の被害届は受理されず揉み消されていた件も少なからずあった。それに切り裂きジャックじゃない。厳密に言うなら切り落とされてる。
大昔の時代でカストラートか宦官だったら、それなりの身分に重宝されて野心があれば出世の可能性もあったらしいが、ゾッとする話だな。
自分はフリーのライターだが、男の惨状を想像すると書く気が失せる。
「おかえり。」
帰宅すると妻が珈琲を淹れると言いながら慌てる様にいそいそと立ち上がった。
「あぁ、先に帰ってたのか。悪いな。」
炬燵に足を入れると何か硬い物に当たった。見ると菓子の空き箱。蓋を開けてみると新聞や雑誌の切り抜き。どれも例の局部切断事件の記事だ。
振り返ると、能面の如く異様に無表情な顔の妻。
「ねぇ、あなたこの前外国で女の子を買ったでしょう。」
「!…あ、れは。取材だ。売春させられてる子達の。」
「…親に売られて売春させられる少女…買いに渡航する男…。」
「俺は違う!話しただけだ!取材だって言ってんだろ!」
生々しい写真が床に叩き出された。嘘だ。同行したカメラマンが浮かぶ。
「残念ながら、私こういうのもゆるさないの。」
「お前、まさか。」
「もうワケわかんないわ。」
突然、大きな枝切り鋏が現れた。
「あなたのも、切らせてね?」
能面が笑う般若になる。
───ここは、どこだ。
声がした。
「流石に許されませんよね、痛そうなんてもんじゃないっすよ。」
誰の話だろう?
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