「機長と副操縦士と機内食」

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「機長と副操縦士と機内食」

 「どなたか、お客様の中でお医者様はいらっしゃいませんか?」  声が聞こえた。  ここは飛行機の中。私が飛行機に乗ったのは数年ぶりだが、今のは空耳か?  だが、もう一度、さらにもう一度。同じ言葉が繰り返される。  空耳ではない。ドラマみたいな事って本当にあるんだな。  声の主はやはりキャビンアテンダントといわれる複数の人達。機内を探し回っている様子。  私は医師と言えなくもないが……残念ながら獣医だ。これは疑問に思うので声を出せない。    「あ、先生。搭乗前にメール見たんですけど、先日の失くしたレントゲン写真見つかりましたって。  それが笑っちゃうんですよぉ 受付のKさんがぁ……」  隣に座っている動物病院の助手が喋り出したのを遮り、頭上から声がした。  「お医者様でいらっしゃいますか?!お願い致します!こちらへお越し願えませんでしょうか!?」  「あ、え、いや、私は医者と言っても、医者ではなく、いや、つまりその、人医ではなくですね」  しどろもどろになる私。余計なことを都合の悪いタイミングで言ってくれた助手が恨めしい。  しかし助手は無邪気にニコニコと笑って言う。  「こちらの先生は獣医さんなんですよぉ~。基本的に人は対象じゃないんですけど、それでもよろしいでしょうか?何かお困りでしたら私達でもお役に立てる事があれば喜んで。ね、先生。あ、私はアシスタントですー。」    私は何も言えなかった。否定できない。  キャビンアテンダントは当然戸惑うが  「お、同じ哺乳類生物には変わりありません!ぜひお願い致します!」  案内されたのは操縦室だった。床に倒れている男が一人。  もう一人は副操縦士らしく、「機長!頑張って下さい!」と励ましていた。  話によれば機内食を食べた直後に機長の様子に異変が起こり倒れたらしい。  だが副操縦士は平気そうだ。  何かあった時の為に機内食は違うものを食べる決まりになっているとの事。  食中毒か何かか?機長が食べたという機内食を見た時、その下に落ちていたメモ用紙のような紙が目に入った。  拾い上げてその紙を裏返してみると。  『奥様に不倫してることバラしました』と書いてあった。
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