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ムーンストラック
「あら、輝夜さん。お帰りなさい。いかがでした久々の地球の様子は?」
「イカもカニもないわぁ。もう地球人てのは理解不能やわ全く。」
「あらあら。」
月に本拠地として暮らす宇宙人・輝夜は数十年に一度ほど、地球の様子を見に定期的に地球へ降り立つことがある。
「はい、あーちゃん。お土産。」
「まぁ。お気遣いありがとうございます。包みを開けても?」
あーちゃんと呼ばれた女性は輝夜が地球に行っていた間、留守番をしていた。
「勿論。どうぞー。」
「あら。月球儀。地球儀じゃなくて?まぁ。中からライトで光るんですね、素敵。月球儀型の照明?クレーターもよく出来てる~。」
「地球人てのはなんで月にあーだこーだ騒ぐんかねー。こないだなんかちょっと赤くなっただけでフィーバーしとった輩おったし。わけわからん。」
「まぁそうなんですか?全ての地球人が皆そうですの?」
「全てって程じゃないけど、こういうの作って売れるくらいやからなー。それなりに需要あるって事やしホラーもロマンも感じるらしい。」
「まぁ。その月に私達がいて、こちらも地球を見ているなんてきっと知らないんでしょうねぇ。ましてや輝夜さんが地球に降りるなんて…」
「そうやなぁ。まぁ、こっちもナントカいう地球からお菓子みたいな名前の船が来たときはちょっと焦ったけどねぇ。何しに来たんか知らんけど地球の中みたいに厄介事持ち込まれたらたまらんわ。」
などと言いながら地球産のストロベリーとミルクチョコレート菓子を頬張る輝夜。
「私も機会があれば地球に行ってみたいですわ。青くて素敵な…」
「え~。あーちゃんはやめといたほうがいいかも~。繊細なハートのあーちゃんには刺激が強すぎて何かあったら心配やし。」
「何かってなんですの?」
「あのなぁ、青くて綺麗なのは上っ面だけや。そこに住んどる人間は沢山怪しい危険人物いるし。騙されて何されるかわからん。ウチなんか…」
「まぁ。それって最初に誘拐された時の事ですの?」
「うん。勝手に姫とか呼んで拉致られて養子にされたと思ったら、人身売買やった。そんで競り落とそうとしたのが三人残ったところで逃げたの。今回様子見てきたけど、それが噓八百の童話として書いた本が昔話として出版されてて、なぜか売れとるみたいやったよ。あん時の人らは見つからんかったけど、きっとその売り上げで裕福な生活しとるんやろなぁ。なんちゅうか商魂たくましいちゅうか…」
「あらまぁ。」
「はぁい。お土産パート2。『月見』の付くファーストフード。」
「まぁ。前回は月見うどんでしたわね。今回は凄い沢山…これはパン?で目玉焼きを挟んであるのばかりですねぇ。」
「店によって微妙に違うけど、みんな月とかムーンとか名前が付いとるから、面白くて買ってきた。」
ワープして一瞬で帰ってきたのでファーストフードは出来立てほやほやでまだ温かい。二人はそれを頬張りながら月トークを延々続ける。
「思い出しましたけど、ムーンストラックってご存知?」
「なにそれ?」
「月を見るとちょっとクレイジーになるそうですわ。まぁその話もいつの事だか不明ですけど。あちらとこちらは時間差が随分ありますしねぇ。」
「あぁそうやねぇ。そういや、また新しい話聞いてきたでぇ。」
「何々、なんですの?」
「あのな、あっちではな。沢山の言語があるんやけど。綺麗な月を褒める時には、月に向かって『アイラブユー』って言わんといかん決まりがあるんやって。または『愛してますー』でも良いらしい。でないと月からお仕置きされるって伝説になっとるらしいで。」
二人はぷぷぷっと笑い合った。
「何ですのそれー。それこそクレイジー~。誰が決めたんですの~。」
「さぁ~?なんか知らんけどあちこちで誰かが言ってた話を総合的にまとめるとそういう事らしい。」
「私達がお仕置きするんですの?」
「知らんがな。どんなお仕置きやねん。そもそも褒めろとか褒めて欲しいなんて一度も求めた事もないし。」
「やっぱりムーンストラックっていうのは事実クレイジーのようですね。」
「うむ。地球人はわからん。」
せっかく直に観察する為に地球に降り立ったという輝夜。だが大いなる誤解をしたまま帰郷を果たした。
二人の誤解が解けるのはまだ遠い先の事になりそうだ。
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