次に目を開ける時

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「ピピピ。ピピピ。シュウリョウデス。ソウチヲハズシテクダサイ。」 アラームがけたたましくなる。男はぼんやりとしながら、頭につけた装置を外した。 「ああ。今回のやつは良かったな。『平凡な幸せ編』、リピート確定だ。…それにしても、昔の人はこんな生活をしていたのか。羨ましい。」 ここは25世紀。100年前から、核戦争が始まり、地球は見る影もなくなっていた。よって人類は、核シェルターでの生活を余儀なくされている。 男は30歳。核シェルター生まれの核シェルター育ちだ。外の世界の事は一切知らない。 彼のように、核シェルターの中しか知らない人々が増えだした頃、政治家達は危機感を覚えた。このままでは、単調で画一的なことしか知らない人々が増えてしまう、と。 そこで誕生したのが、記憶体験装置だ。これを装着すると、核戦争前の人々の、ありとあらゆる記憶を体験することができる。科学者が、様々な文献を駆使して忠実に再現しているので、完成度は非常に高い。しかも、戦国武将の記憶からグラビアアイドルの記憶まで多種多様である。 しかし、一番人気は『平凡な幸せ編』だ。男も、借りるのに1ヶ月ほど待たされた。 「はあ…。俺が生きている間に、外へ出ることが出来る日は来るのだろうか…。」 男は天井を仰ぎながら嘆く。しかし、やがて眠くなり、ベッドに潜り込む。 「おやすみなさい。」 そうして男は目を閉じた。
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